本稿は〈原因を言語化→色と濃度を設計→技法ごとの整え方→環境の表現→仕上げとリカバリー〉の順で、再現しやすい運びをまとめます。
- 「汚い」に見える典型要因を切り分ける
- 下地と明度差を基準に色を設計する
- 技法ごとに濃度と拭き取りを整える
- 環境の順序で埃と雨だれを重ねる
- 写真と艶で最終印象を安定させる
ガンプラのウェザリングが汚いと感じたら|基礎から学ぶ
最初に「なぜそう見えるか」を言葉にすると、次の一手が小さく決まります。ここでは情報量、スケール感、配置、艶、順序の五点から入り口を整えます。言い換えると、濃度と輪郭、密度と面積、時間の並べ方のズレをほどけば、多くの“汚い”は薄れていきます。
情報量の過多と“同一幅”が招く単調
面の隅から隅まで同じ幅で汚しが乗ると、視線の休み場が消えます。写真用ライトで全体を俯瞰し、色が動かない帯を見つけましょう。帯の中央を薄め、端に濃度を寄せるだけでグラデーションが生まれます。強いスジは一度消してから細い線を重ねる方が自然です。線幅は三段階以内が目安で、面積の大小に応じて幅を縮めると単調さが抜けます。
スケール感のズレと輪郭の濃さ
1/144と1/100で汚れの粒径は変わります。実物換算を意識し、輪郭の濃さを抑えた“面の濃淡”を増やすと落ち着きます。輪郭だけが力強いと、イラストの線画のように見えやすいです。面を先、線は後。線の濃さは面の最大濃度より半段階下げると馴染みます。筆先は角で触れず寝かせ気味に置くと、縮尺の違和感が目立ちにくいです。
配置の偏りと視線誘導
汚しが前面の左下に寄るなど偏ると、視線が片寄って疲れます。三角形を意識し、主・従・余白の三点に強弱を散らすと落ち着きます。装甲の合わせ目やヒンジ、排気口など“因果がある場所”に濃度を集め、空白はあえて残すと密度差が活きます。面の中心に濃い点を置くより、境界やエッジからしみ出す表現が自然です。
素材と艶の混線
金属・樹脂・布地など素材の違いが艶で表現されていないと、汚れが同質化して見えます。金属面は点の反射を持ち、樹脂面はやや拡散、布地はさらに拡散するよう艶を変えます。艶で素材を分けると、同じ色を置いても汚しが整理されます。つや消し一辺倒から半光沢を混ぜるだけで、物性の差が立ち上がります。
工程の順序と乾燥不足
ウォッシュ→拭き取り→フィルター→ピグメントの順序を曖昧にすると、混じりが起きて“濁り”が増えます。各段の乾燥は触れない時間を確保するのが目安です。段ボール内で静置し、直風は避けましょう。次工程の溶剤が前段を溶かすとムラが暴れます。弱→強の溶剤順で進めると事故が減ります。
1. 俯瞰写真で帯状の“同一幅”を探す
2. 面→線の順に濃度を段階化する
3. 素材に応じて艶を切り替える
4. 因果のある場所に濃度を寄せる
5. 乾燥を確保し弱→強の溶剤で進める
- 面の濃淡
- 線ではなく広がりで付ける濃度差。単調さを抑えます。
- 因果のある場所
- 可動や排気など汚れが起きる理由がある位置。
- 帯状の同一幅
- 均一幅のムラ。単調の主犯で先に緩めます。
“汚い”の正体が見えると、次は色と濃度を設計する段です。バドミントンでコース配分を先に決めるとラリーが楽になるように、色の配分を決めるだけで手が軽く動きます。
色設計と濃度の考え方:汚れを“色”として整える
汚れは一色ではありません。ここでは下地、明度差、補色の軸で、濃度を“段”として設計します。茶と黒の役割を分け、補色をわずかに混ぜると濁りが澄み、汚れが“風景”として見えてきます。
下地色と明度差の基準
下地が明るいほど、同じ茶でも強く見えます。まず下地との明度差を二段階に抑え、極端な暗さを避けます。白系装甲ならセピア寄りの薄茶、暗色装甲なら灰混じりの茶が馴染みます。明度差を測るカードを作り、段階を記録しておくと再現性が上がります。迷ったら一段薄めから始めた方が後の調整が楽です。
茶と黒の役割分担
茶は土や油のニュアンス、黒は影の補強や焦げの輪郭です。茶だけだと眠く、黒だけだと硬くなりがちです。面の大半は茶で動かし、要所の輪郭だけ黒で締めると自然です。黒は“存在しない影の補完”に使わず、既にある影の延長として置くと過剰感が減ります。黒は量でなく位置が鍵です。
補色で“清潔な汚れ”を作る
赤茶に少しだけ青緑、黄土にわずかに紫など、補色を1割未満で混ぜると濁りが落ち着きます。補色は目に見えるほど入れず、“見えないけれど効いている”程度が目安です。結果として透明度が上がり、写真での乗りが良くなります。補色の入れ過ぎは灰色化を招くため、紙パレットで必ず試してから本体へ移すと安心です。
補色で濁りを抑え、薄い濃度でも情報量が増えます。
調整が繊細で、入れ過ぎると灰色化しがちです。
— 明度差は二段階以内から始める
— 面は茶、輪郭は黒で締める
— 補色は1割未満で“効かせる”
暗くし過ぎて全体が沈んだとき、赤茶へ青緑をほんの少量混ぜたら、同じ濃度でも見通しが良くなりました。色の整理は効きます。
色は設計図です。数値の代わりに“段”で考え、同じ条件で試作片を撮影しておくと、次回も迷いが減ります。
ウォッシュ・フィルター・ピグメント別の整え方
技法の言葉は似ていますが目的が異なります。ここではウォッシュは溝を強める、フィルターは面の空気色を足す、ピグメントは粉の質感を与える、と役割を分けます。濃度・拭き取り・定着の三点で“汚い”を避ける運びを組み立てます。
ウォッシュの濃度と拭き取りのタイミング
濃度は“茶1:溶剤8〜10”からが目安です。溝に流し、艶の低い綿棒で面をなでて余分を取り除きます。乾き切る前に触るとムラが暴れるため、半乾きで一度止めると安定します。濃度を上げるのではなく、回数を分けると“線が太る”事故を避けられます。広い面は事前に半光沢で滑りを作っておくと、拭き取りが楽になります。
フィルターで“空気色”を足す
面全体に薄い色をかけ、雰囲気を揃える手段です。灰・茶・青などを極薄で霧状に重ね、色の“平均”を微調整します。強すぎると下地の表情が消えるため、写真で確認しながら薄く重ねます。面の中央を薄く、境界付近をやや濃くすると量感が出ます。フィルター→ウォッシュの順にすると、線が浮きにくいです。
ピグメント定着と粉感の制御
乾いた粉を置くため、触れると落ちるのが前提です。定着液は点で置き、毛細管現象で吸わせると粉が固まらず自然に残ります。靴や足回りは面で支えるよう広げ、上面は風の流れを意識して薄く散らします。落ちやすい場所は後で追加できるよう、最初は控えめに留めるのが扱いやすいです。
- ウォッシュは薄く回数を分ける
- フィルターは写真確認で平均色を調整
- ピグメントは点で定着し粉感を残す
- 溶剤は弱→強の順で段階化
- 半光沢で拭き取りの滑りを確保
- 乾燥時間を記録して再現性を上げる
- 撮影角度を固定して比較する
線が太る:濃度不足。回数を分け、拭き取りは半乾きで。
面が眠い:フィルター過多。中央を薄く境界で締める。
粉が落ちる:面で塗り固めず点で定着液を置く。
□ ウォッシュ濃度の基準を持っているか
□ フィルター後に写真で平均色を確認したか
□ ピグメントの落ちやすい場所を把握したか
□ 乾燥・再開の時刻をメモしたか
技法は目的が半分、運びの静けさが半分です。焦らず段を刻むだけで、仕上がりの雑味は減ります。
チッピングと擦り傷のバランス設計
剥がれや傷は“事故の痕跡”です。ここでは起点、方向、寸法をそろえ、面の中の小さな物語として配置します。スポンジと筆を併用し、下地色の選び方で説得力を上げます。
塗り欠けの設計と破断の説得力
角、ハッチ、通路側の面など、接触の多い位置から剥がれを置きます。面の中央に無因果の剥がれを置くより、エッジから侵食する方が納得感が出ます。破断は“点→線→面”の順で広がるため、点を散らし、向きの揃った短線を添えるとリズムが生まれます。
スポンジと筆先の併用
スポンジで微細な点を作り、筆で要所を補強します。スポンジは押し付けず転がし、密度を少しだけばらけさせます。筆は角ではなく面を使い、傷の向きが面の流れと整合するように置くと、情報が騒がしくなりません。二段階の明度で重ねると奥行きが出ます。
下地露出色を選ぶ目安
装甲の下地が金属なら暗い鉄色、樹脂なら少し明るいグレーが馴染みます。露出色は派手にし過ぎず、上色との差を半段階に抑えると嘘っぽさが減ります。タンク際などは油分を想定し、茶をわずかに混ぜると自然です。
| 道具 | 用途 | 粒/線の質感 | 向いている場所 |
|---|---|---|---|
| スポンジ | 点の散布 | 微細で不規則 | エッジ周りや踏面 |
| 丸筆 | 線と点の補強 | 向きのある短線 | ハッチや角の起点 |
| 平筆 | 擦り傷の面 | 薄い筋の重なり | 通路側の面 |
Q.剥がれがうるさい?
A. 起点を絞り、点→線→面の順で広げると落ち着きます。
Q.金属感が浮く?
A. 明度差を半段に抑え、黒で輪郭を強めないだけで馴染みます。
Q.スポンジ跡が目立つ?
A. 転がす動きに変え、筆で向きを揃え直すと整います。
・二段階明度の重ねで“嘘っぽさ”が減る。
・エッジ起点の配置は視線誘導に効く。
・金属色は量より位置で印象が変わる。
チッピングはアクセントですが、主役ではありません。面の濃淡との“比率”を意識すると、全体の風景としてまとまります。
砂埃・雨だれ・焼けを環境で考える運び
環境表現は順序が核心です。ここでは乾いた埃、湿り気の筋、熱と煤の三要素を、発生源から出口へ向かう流れで重ねます。順序を守るだけで、過剰な濃度に頼らず立体感が出ます。
乾いた埃を重ねる順番
足元→膝→腰の順で上へ薄く。上ほど量を減らすと重力の説得力が出ます。ピグメントは点で定着液を吸わせ、粉感を残します。凹部は舞い込みやすいためやや濃く、上面は風で飛ぶので薄めに留めます。乾いた埃の後に濡れ筋を重ねると、境目が自然につながります。
雨だれと流れの起点
段差やボルト、排気口の下に細い筋を置きます。最初から長い線を引かず、短いタッチを連ねると自然です。筋の濃さは上を濃く、下で薄めます。途中で消える筋を混ぜると、面の密度が整います。雨だれは“面の輪郭を削る役”でもあるため、ラインを少しだけ崩すと生き物らしさが出ます。
焼けと煤の境目
熱は色を変え、煤は明度を落とします。焼けは黄色→茶→紫の順で薄く、煤は黒と灰を点で散らします。排気周りは中心を最も濃くせず、少し外側にピークを置くと拡散の感じが出ます。焼けは“色”、煤は“明度”と役割を分けると混線しにくいです。
- 埃→雨だれ→煤の順で重ねる
- 上へ行くほど埃を薄くする
- 雨だれは短いタッチを連ねる
- 焼けは色、煤は明度で分担
- ピークは中心から少し外へ
- 境目は半光沢で馴染ませる
- 写真で濃い帯を探して緩める
1. 足回りに乾いた埃を点で定着
2. 段差下へ短い雨だれの連続
3. 排気周りに焼けの色を薄く重ねる
4. 外側に煤のピークを置く
5. 半光沢で境目を馴染ませる
環境の順序はラリーの組み立てと似ています。先の一手を予感しながら、強弱を散らすと無理がありません。
仕上げと撮影とリカバリー:印象を整える最終段
最後は艶、写真、やり直しの三本柱で整えます。艶で素材を分け、写真で偏りを見つけ、必要なら安全な順序で戻します。完成を急がず、静かな確認の時間を差し込みましょう。
艶でまとめる薄いベール
全体をつや消しで統一すると眠くなる場合があります。金属は半光沢、樹脂はつや消し強めなど素材別の艶で分けると、同じ汚れでも整理されます。艶は厚く吹かず薄いベールに留めると、下地の情報が生きます。境目は斜めからの霧で馴染ませると自然です。
写真で崩れを見つける
肉眼より写真の方が帯や偏りが見えます。撮影角度と光源を固定し、白背景と黒背景で交互に撮ると、濃度の行き過ぎが浮きます。左右反転も有効です。濃い帯が見えたら、その帯の中央を薄め、端へ濃度を寄せ直すと整います。最終の一押しは写真を相手に行うと効きます。
やり直しの段取り
戻すときは、一気に消さず“薄める→馴染ませる→再構築”の三段で進めます。溶剤は弱い方から。面のフィルターで平均色を動かし、必要ならウォッシュを入れ直します。ピグメントは後回しにして、最後に粉感で整えると事故が減ります。時間を分け、焦らないことが最大の近道です。
艶と写真で客観性が増し、最小限の手戻りで済みます。
確認時間が増えますが、完成後の満足度は安定します。
艶で情報が消える:厚吹き。薄いベールで素材差を残す。
写真で違いが出ない:光源と角度が日々違う。固定して比較。
やり直しで濁る:強溶剤から触らない。弱→強で段階化。
1. 素材別に艶を割り当て薄く吹く
2. 固定条件で白/黒背景の写真を撮る
3. 濃い帯を薄め端に濃度を寄せ直す
4. 必要ならフィルター→ウォッシュを再構築
5. 最後にピグメントで粉感を整える
最終段は“足し算より引き算”です。余白を作る勇気が、清潔なウェザリングへ導きます。
まとめ
“汚い”の多くは、濃度と配置と艶の三点が揃っていないだけです。情報量は面で先に、輪郭は後で補う。茶と黒の役割を分け、補色で濁りを抜く。ウォッシュは薄く分け、フィルターで平均を整え、ピグメントで粉感を添える。チッピングは点→線→面の順で因果のある位置へ。
環境は埃→雨だれ→煤の順に重ね、焼けは色、煤は明度で分担。艶で素材を分け、写真で偏りを見つけ、やり直しは弱→強の段で戻す。バドミントンの配球のように、強弱とコースを散らす意識が、清潔なウェザリングへの近道です。
今日の一体は明日の基準になります。段を記録し、同じ条件で比べる習慣を作るだけで、再現性は穏やかに育ちます。気持ちよく“時間の物語”を乗せていきましょう。

