まずは机上の準備から、切り出し、削り、磨き、塗装前後の調整までを一本の流れにして、迷いなく手を動かせるようにします。
- 作業灯は影が二重にならない配置にする
- カッターマットは硬めを選び刃の沈みを抑える
- アルコール系ウエットティッシュで手油を拭く
- 替刃は小箱で番手や種類ごとに仕切る
- 研磨粉はこまめに払って目詰まりを防ぐ
- 削る前に方向を決めて一筆で通す
- 疑ったら戻すを合言葉に番手を切り替える
- 仕上げは必ず別光源で斜めから確認する
ガンプラのゲート処理を基礎から完成まで|段取りと実践
最初に押さえておくと安心なのは、樹脂の挙動と刃の当て方です。白化は材料内部の微細な割れや表面の擦りガラス化が主因で、力の逃がし方と削り方で大きく差が出ます。ここでは原理を短くつかみ、後工程の判断を楽にします。
ゲートとパーティングラインの違いを把握する
ゲートは金型から樹脂が流れ込む入口で、素材が最も密に詰まるため硬く、切り応えがあります。対してパーティングラインは金型の合わせ目に生じる縦の筋で、削る量は少ないものの長く連続するのが特徴です。前者は「段差を均す」、後者は「線を消して面をつなぐ」という別の狙いで考えると、手の動きが整理されます。
ゲートは面やエッジの近くに位置することが多く、角を残すための保護が必要です。一方でパーティングラインは面の中央を横切るので、削り跡のつやムラを残さないことが仕上がりの鍵になります。
白化が起きる理由と抑え方の考え方
白化の主因は、素材が刃やヤスリの圧力で微細に裂け、光を乱反射することです。対策は三つに集約されます。第一に力を点で入れないこと。刃を寝かせて面で支え、段階切りで応力を分散します。第二に摩擦熱を抑えること。連続でゴリゴリ削らず一筆で通して粉を払う、必要に応じて湿式を使う。第三に番手を戻す勇気を持つことです。細かい番手へと急ぎ過ぎると曇りが取れず、かえって傷が残ります。迷ったら一段粗い番手に戻し、筋を均してから進めると結果が安定します。
ニッパーの当て方と段階切りの原理
ランナーからの一発切りは白化の代表的な原因です。最初はゲートの根本から1〜2mm離して一次切断、次にゲートに半分だけ刃を当てる二次切断、最後はナイフや薄刃で面をなでて均す三段階で考えます。刃は「押す」のではなく「置いて閉じる」感覚で、可動側をパーツ側にしないのが基本です。
ニッパーを立てると点で力が入るため、刃角は寝かせ気味に。指はパーツの裏で支え、振動を逃がさないようにすると切り口が暴れません。
素材ごとの特性を踏まえた注意点
一般的なPSは切削性がよく、白化は管理しやすい素材です。ABSは粘りが強く割れやすいので、厚刃の一発は避けて、必ず段階切りに。クリアパーツは傷が光って増幅されるため、刃も研磨も特に新しいものを使い、押し切り禁止で引き切りに徹します。軟質素材やポリ部品は刃が食い込みやすいので、ナイフで「削る」より「そぐ」イメージが安全です。
明るさと姿勢でミスを減らす作業環境
影が二重になるとエッジの位置が分からず、削りすぎの原因になります。作業灯は正面と斜めからの二灯を推奨、色温度は5000K前後にすると樹脂の地色と白化の差が見やすくなります。背景は中明度のグレーを置き、反射でつやが飛ばないように調整します。椅子の高さは前腕が机と並行になる位置に合わせ、刃の入射角を一定に保ちます。
ポイント:エッジを守るため、面に沿って刃を走らせる前に「当て木」になるカードや薄いプラ板を添えます。角が逃げず、均しの最後まで形が崩れません。
手順の骨子(概観)
1. ランナーから一次切断で耳を残す。2. 二次切断で耳を半分に減らす。3. ナイフで面をなでる。4. 番手を180→400→800の順に上げる。5. つやを整え、最終確認をする。
この「薄く残してから面で取る」流れが、白化を抑える最短コースです。
ミニ用語集
- 白化:微細な割れや擦り傷で白っぽく見える現象。光が乱反射する。
- 段階切り:一次・二次と刃を分け、応力を分散して切る手法。
- 面出し:凹凸やうねりを整え、面をまっすぐにする作業。
- 番手:ヤスリの粗さの指標。数値が大きいほど目が細かい。
- 引き切り:刃を引いて紙のようにそぐ動き。押し切りより白化しにくい。
道具の選び方とメンテナンス
道具選びは作業の再現性に直結します。ここではニッパー、ナイフ、ヤスリを軸に、「切れる」「持てる」「続けられる」の観点で組み立てます。手に合う道具は疲れにくく、ミスが減り、仕上がりが安定します。
ニッパーの種類と日々のケア
片刃の薄刃は切断面が平坦で後工程が楽、両刃は強度が高くランナーの太い部分で安心です。バネの硬さとグリップ形状は必ず手で確かめ、閉じ切らずに止まるタッチが理想です。使用後は切粉を払い、軽く防錆油を綿棒で点付けします。落下は刃こぼれの主因なので、机の上に磁石付きのトレイを置き、置き場所を固定しましょう。
デザインナイフと替刃の管理
柄は太すぎると手首が固まり、細すぎると指先の圧が一点に集まります。指の腹で軽く転がせる太さを基準に選ぶと、面になじませる動きが安定します。替刃は「曇りが消えにくくなったら交換」と覚えるとよく、早めの交換が総作業量を減らす近道です。刃の投棄はケースで行い、作業マットの下に滑り込ませて事故を防ぎます。
ヤスリとスポンジの番手構成
平・角・丸の三種を最小構成に、スポンジは面に追従する厚めと、エッジを守る薄めを揃えます。番手は180/240/400/600/800/1000/2000が基本線。足りないのは粗さではなく当て方というケースが多く、まずは面で当て、粉を払い、角度を変えて確認する習慣をつけると、同じ番手でも仕上がりが変わります。
メリットと留意点
薄刃ニッパー:後工程が軽い。欠点は刃こぼれに弱いので段階切りが前提。
両刃ニッパー:強度と万能性。欠点は平面が出にくく、ナイフやヤスリの出番が増える。
スポンジヤスリ:曲面追従が得意。欠点は角が丸くなりやすいので当て木が必要。
ミニ統計(体感の目安)
新品の薄刃に替えると、二次処理の削り量はおよそ2〜3割減ります。柄の太さを一段見直すと、握力の消耗は1〜2割軽くなる傾向です。番手を飛ばさず一段ずつ上げると、戻り作業の回数が半分程度になります。
チェックリスト
- 刃先は光を反射していないかを斜めから確認する
- ニッパーの可動側をパーツに向けていない
- 替刃は「曇りが消えにくい」を合図に即交換
- スポンジは角を落としてエッジ当てを避ける
- 作業前に手油を拭いて滑りを一定にする
切り出しから一次処理までの実践手順
ここから実際の動かし方です。段階を刻むこと、当てる面を広くすること、確認を挟むことを合言葉に進めます。ひと手間を惜しまないほど、後の番手が楽になります。
ランナーからの段階切りと刃の置き方
一次切断はランナー側で耳を大きめに残します。パーツを握り込むと応力が逃げず白化するため、指腹でそっと添える程度に。二次切断は耳の半分を落とし、刃は耳の「外」から「内」へ動かします。可動側をランナーに向け、固定側をパーツ側に置くと、切り口が平らになり後が整います。最後にナイフを寝かせて、面をなでて「段差だけ」を取り去ります。
ナイフでの均しと指当ての工夫
ナイフは平らな部分で面を支えるのが基本。刃先を使うと点に力が集中し、白化の入口になります。指は刃の前に軽く置き、ストッパーにして行き過ぎを防ぎます。動きは「そぐ」イメージで、同じ方向に繰り返しすぎないように一筆で通して粉を払います。
面が波打ったら、焦らず一段粗い番手に戻し、筋を消すことを優先。細かい番手では筋は消えにくいので、早めの判断が時短につながります。
白化が出たときのリカバリー
白くにじんだら、まず「原因が段差か、曇りか」を見分けます。段差が残っているなら180〜240で軽く均し、曇りだけなら400〜600で面を整えます。湿式で粉を浮かせると回復が早い場面もありますが、角の水膨れでだれやすいので、エッジ付近は乾式を基本にします。最後に800〜1000でならし、同じ光源と別光源の二回で確認します。
実践ステップ(小パーツ想定)
1) ランナー側で一次切断。2) 耳の半分を二次切断。3) ナイフで面をなでて段差を消す。4) 400で筋を取り、600でならす。5) 800でつやをそろえ、必要なら1000以上へ。6) エッジを指腹で触れて直線を確認。7) 別光源で最終確認。
よくある失敗と対策
・一発切りで白化→段階切りに切り替え、刃は置いて閉じる。
・ナイフでえぐる→刃を寝かせ、面を支えに「そぐ」。
・番手を飛ばして曇り残り→一段戻して筋を消し直す。
・角が丸くなる→当て木やカードを添えてエッジを守る。
短問短答(ミニFAQ)
Q. 湿式はいつ使う? A. 平面の曇りを均すときに効果的。エッジ付近は乾式を基本に。
Q. クリアは何番から? A. 600から入り、早めに1000〜2000へ。刃は常に新品同等を使用。
Q. 白化が消えない? A. 原因が筋なら番手を戻し、亀裂なら切り直して面を立て直す。
ヤスリ番手と面の整え方の実践
番手は上げるだけでは仕上がりません。戻す判断と当て方の切り替えが重要です。面を平らに出すこと、つやをそろえること、エッジを守ることの三本柱で考えます。
番手の上げ方と戻し方の判断基準
400で筋が消えれば600へ、600で全体が均一に曇れば800へ。どこか一部でも曇り具合が違ったら、必ず戻すが鉄則です。筋の残りは上の番手では消えにくく、無駄に時間がかかります。粉を払って、斜めの光で「まだら」を探す癖をつけると、必要な戻しが素早く判断できます。
面出し治具の使い方とエッジ保護
カードサイズの当て木にスポンジを貼ると、平面に均一な圧がかかります。エッジを残したいときは、マスキングテープを角に一枚巻いて「当たらない角」を作ると安全です。曲面は厚めのスポンジに切り込みを入れて追従性を上げ、力を入れすぎないように腕ではなく指の第一関節で支えます。
湿式と乾式の使い分け
乾式はエッジの保持と切削感の把握に優れ、湿式は粉の再付着を防いで細番手の仕上げに向きます。湿式は耐水ペーパーを小さく切り、軽く湿らせて一筆で通し、水滴は都度ティッシュで押さえ取ります。
水分が残ると塗装前の弾きや白化の再発の原因になるため、最終的には乾拭きで仕上げます。
| 段階 | 目安番手 | 主な目的 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 一次均し | 180〜240 | 段差を落とす | 当て木で面を保つ |
| 筋消し | 320〜400 | 粗筋の除去 | 一筆で通して粉を払う |
| つや揃え | 600〜800 | 面を均一に曇らせる | 戻しの判断を早く |
| 下地仕上げ | 1000〜2000 | 塗装前の整え | 湿式で目詰まり回避 |
| 透明磨き | 3000以上 | クリアの傷消し | 押し付けず滑らせる |
ベンチマーク早見
・400で全体が均一に曇ればOK。まだらなら戻す。
・800でエッジに変化が出たら圧が強いサイン。
・1000で水が灰色にならなければ当たりが軽すぎ。
大きな肩アーマーの面出しで、400から800に急いで進めたところ、つやムラが残って逆に時間がかかりました。320に戻して筋を丁寧に消し直したら、以降の番手が半分の回数で済み、結果的に早く美しく仕上がりました。
つや統一と仕上げ研磨のコツ
仕上げは「つやの統一」で決まります。消し・半つや・光沢のどれを狙うかで、磨きの終点と動かし方が変わります。面とエッジのコントラストを保ちつつ、光が流れるように整えます。
つやの設計と整え方
素組みの質感を活かすなら半つや寄り、メカ感を強調するならつや消し、鏡面で魅せるなら光沢仕上げが向きます。いずれも面の均一さが第一で、磨きの方向を一度決めて通すと、光の線が整います。面が広いパーツはブロックに分け、区切りごとに確認を挟むとムラを抑えられます。
研磨クロスとコンパウンドの使い分け
クロスは細かい傷の均一化、コンパウンドは最終的なつや出しのために使います。コンパウンドは量を絞り、押さずに広げて拭き取るのがコツです。布は面を作るために指に巻き、圧が一点に集まらないように動かします。
クリアやメタリックは磨きすぎると質感が変わるので、必ずテストピースで終点を決めます。
クリアパーツの傷消しと保護
クリアは3000以上の超微粒子から入り、横方向だけに動かして研磨筋の向きを統一します。最後に専用のクリーナーや薄めのクリアで表面を均して、指紋を完全に除去します。固定時は布で包み、硬い治具に直接当てないようにすると、微細な打痕を避けられます。
- 仕上げたい質感を決め、テストピースで終点を決める
- 面を分割し、区画ごとに光の通りを確認する
- 研磨クロスで傷の向きをそろえる
- 必要に応じて超微粒子のペーパーで整える
- コンパウンドを最小量で広げ、押さずに磨く
- 拭き取り用と仕上げ用で布を分ける
- 別光源でつやムラと指紋をチェックする
- 保護のために薄くトップコートで封じる
注意:コンパウンドの粒子がパネルラインに詰まると白く残ります。作業後は柔らかい刷毛で溝を払ってから拭き取りましょう。
磨きのメリット/留意点
メリット:面のうねりが減り、光の線が揃う。
留意点:エッジが丸くなりやすいので、圧は面で分散し、角は当てない工夫を。
塗装前後のゲート跡対策と保護
最後は塗装とのつながりです。下地で浮き出る筋、トップコートで現れる段差など、塗膜の増減を前提に読み替えると、失敗が減ります。保護と仕上げの順番を丁寧に整理します。
サーフェイサーの当て方と透け確認
下地色は薄く二回に分け、最初は斜めからの霧で当てます。面に当たる角度を変えることで、筋や段差が浮きやすくなります。透けて見える線は、上の番手ではなく一段戻した番手で筋を消すのが近道です。
サフの乾燥後は必ず指腹で触れて、段差の有無を確かめます。視覚だけでなく触覚の情報が、均し直しの判断を助けます。
部分塗装やスミ入れ時の注意
部分塗装はマスキングの段差がゲート跡と干渉することがあります。段差が寄る位置は、塗膜が重なって厚くなると覚えておき、面の中央ではなく端側に逃すと仕上がりがすっきりします。スミ入れは溶剤の強さで白化を誘発することがあるため、試し打ちをしてから本番に移りましょう。
トップコートでの隠蔽と保護
トップは隠す薬ではなく、つやをまとめる幕と捉えると判断がブレません。半つやで面の粗をならし、必要なら光沢で被膜を厚くしてから軽く研ぎ出します。つや消しは粒子が角に溜まりやすいので、重ねすぎに注意します。
乾燥後は柔らかい布で拭い、最後に手油防止のため薄手の手袋で組み立てると再汚染を防げます。
- サフは霧二回で様子見、浮いた筋だけ戻して均す
- 部分塗装は段差をエッジ側に逃がして線を保つ
- トップは目的を決めて薄く重ね、角の溜まりを避ける
- 乾燥後は触覚で段差を確認、必要なら局所研磨
- 組み上げ時は手袋を使い、つやムラを寄せない
- 最終チェックは別光源と自然光で二回行う
短問短答(仕上げ編)
Q. トップでゲート跡は消える? A. 段差は消えません。先に面で取るのが最短です。
Q. つや消しで白化が目立つ? A. 粒子の散乱で強調されます。番手を戻し、面を整えてから再塗装を。
ベンチマーク早見
・下地で筋が見えたら戻す。→戻し1回のほうが総作業は短い。
・トップ1回で変化が薄いなら、塗り重ねより面の見直しを優先。
・組み上げ後の白い点は多くが押し痕。保持具と当て布で予防。
まとめ
ゲート処理は「段階で力を分け、面で受けて、確認を挟む」の三点を守るだけで安定します。一次で耳を残し、二次で半分に減らし、最後は面でなでて段差だけを取る。粉を払って光を変え、迷ったら番手を戻して筋を消す。
この繰り返しが白化を遠ざけ、つやの統一を助けます。仕上げでは面の設計を決め、磨きは押さずに広げ、エッジは当てない。塗装前後は塗膜の厚みを読み、下地で浮いた筋は早めに戻して整えると近道です。
大きな工夫よりも、小さな手順の積み重ねが効きます。今日の一本を丁寧に切り、明日の一枚をやさしくなでる。その先に、思い描いた立ち姿が自然に現れます。

