金属感を狙ったはずが粉っぽく見えたり、曇って鈍くなったりして、思うように輝かないことは少なくありません。そこで本稿では、下地の整え方と粒子の操り方を軸に、メタリック塗装のコツを実作業の順でまとめました。ねらいは単純で、作業量を増やさずに見映えを一段引き上げることです。
読み終える頃には、艶と粒度のバランスが自分の言葉で説明でき、道具と時間の配分が澄んで見えるはずです。今日は気になる小パーツだけで試し、明日は面の広い装甲へ段階的に広げていきましょう。
- 下地で光を整え、粒子で方向性を決める
- 希釈と噴霧で粒の並びを乱さない
- 艶は層で制御し、曇りを避ける
- クリアとデカールの順で密着を高める
メタリック塗装のコツを学ぶ|テンポよく進める
最初に全体像を描きます。金属感は鏡面に近い下地と、整列した金属粒子、そして適切な艶の仕上げの掛け合わせで立ち上がります。どれか一つが崩れると粉っぽさや曇りに直結するため、工程を足すよりも、順序と加減を確かめながら進めるのが近道です。ここからは、誰でも再現できるように段取り化していきます。
下地は平滑さと色温度で決める
金属感の多くは下地で決まります。黒やダークグレーの光沢下地はコントラストが強く、高輝度で締まった印象を作れます。反対に、ウォームグレーやベージュ寄りを使うと柔らかい金属に見えます。いずれもペーパーは1000→2000番で段階を踏み、最後はコンパウンドで曇りを消します。平滑さが整うと、同じメタリックでも一段明るく感じられます。
粒子は寝かせて並べる
メタリックの顔料は薄い鱗片状で、面に対して平行に並ぶほど反射が揃い、輝度が上がります。強風や近距離の厚吹きは粒が起きやすくザラつくので避けます。ノズルはやや離し、希釈を増やして薄い霧を重ね、最後は低圧で軽く一往復だけ光を整えます。塗膜を厚くしないのが美観と塗り分けの両立に効きます。
艶は層でコントロールする
トップコート一発で決めるより、下地・メタリック・クリアの三層で艶を設計すると破綻しにくいです。光沢の下地にメタリックを薄く載せ、半光沢クリアで反射を丸めると情報が整理されます。武器など硬質に見せたい部位は光沢寄り、装甲は半光沢寄りに分けるだけで写真の読みやすさが変わります。
色味は補色で締める
シルバーだけで済ませず、青や赤の微細パールをごく薄く重ねると、金属の冷暖が出て単調さを避けられます。黒立ち上げのシルバーには寒色、暖色系メタルにはごく薄い琥珀色を選ぶと調和します。やりすぎは濁りの元なので、面の一部で色が変わる程度に抑えると自然です。
失敗は乾燥を待ってから戻す
ザラつきや曇りが出たら、すぐに触らず乾燥後に極細のスポンジで軽く均し、薄いメタル層を一回だけ乗せ直します。溶剤で拭き取ろうとすると下地ごと動きやすいので、面の端でテストしてから判断します。焦らず層のやり直しに切り替える方が結果的に早道です。
作業の基本手順
- パーティングラインと面の歪みを1000→2000番で整える
- 光沢下地を薄く2〜3層で仕上げて完全乾燥を待つ
- メタリックを希釈強めで霧状に重ね、粒子を寝かせる
- 必要なら色味の微調整用に極薄のパールを一層
- 半光沢〜光沢クリアで艶を合わせ、一晩置く
Q:メタリックが白っぽく曇るのは?
A:下地の粗さか、厚吹きで粒子が起きている可能性が高いです。平滑化→希釈増→距離を5〜10cm伸ばす順で調整します。
Q:筆塗りでも金属感は出せる?
A:面の向きを一定にして薄塗りを重ねれば質感は十分出ます。乾燥後の2層目で筆目をならすと安定します。
Q:トップコートはいつ?
A:デカール前に光沢、貼付後に目的の艶で統一します。湿度が高い日は白化に注意し、薄く重ねます。
- 粒度
- メタリックの粒の大きさ。細かいほど上品に、粗いほどギラつく。
- メタリックベース
- 粒子が寝やすい溶剤・樹脂設計の塗料群。霧足が長い。
- 曇り
- 艶引き。水分や厚吹きで起きる白化・白ボケ。
- パール
- 干渉色顔料。極薄で重ねて色温度を調整する。
- クリア層
- 艶を決める透明の保護層。半光沢が万能。
下地と鏡面づくりで結果の半分が決まる
下地は金属表面の「鏡」を作る工程です。わずかな荒れや段差でも反射が乱れ、金属感が薄れます。ここでは平滑さと色温度の二軸で調整し、素材差を吸収します。サフ→研ぎ→光沢ベースの三段で、無理なく再現できる手順に落とし込みます。
- サーフェイサーを薄く二層。ピンホールをマークして補修
- 1000→1500→2000番で水研ぎ。指先で段差の消失を確認
- 光沢ブラックなどの下地を霧→本吹きで2〜3層
- 乾燥後に超微粒コンパウンドで曇りを除去
- 脱脂して指紋を避け、直ちにメタル層へ移行
サフの色を使い分ける理由
黒サフは欠けが見えやすく、高輝度系に向きます。グレーは作業痕が読みやすく、面均しに適します。白は黄味のないシルバーや明色メタルで色の濁りを避けたいときに有効です。いずれも厚吹きせず、欠けだけをスポットで補修すると歪まずに済みます。
光沢下地の選び方
ラッカー系は乾燥が早く扱いやすい反面、溶剤でメタル層が動きやすい場合があります。ウレタンクリアを薄く挟むと安定しますが、匂いと扱いは要配慮です。水性光沢でも鏡面は作れるので、環境に合わせて選択します。
デメリット:乾燥待ちが必要/研ぎの粉が可動部に入りやすい
吹き方と希釈比で粒子の表情を整える
同じ塗料でも希釈と吹き方でまるで別物に見えます。ここでは圧力・距離・希釈比の三点を小さく動かし、粒子を寝かせて並べる再現性を高めます。厚く塗らず、薄い霧で整える発想に切り替えると、ムラもタレも遠ざかります。
- テストピースで希釈を三段階に分け、乾燥後の差を見る
- 距離を2cm刻みで比較し、光の走り方を確認
- 最後に低圧で全体を一往復し、反射を均す
希釈の増減で生地の見え方が変わる
濃度が高いと短時間で色が乗りますが、粒が起きやすくなります。希釈を増やすと一層の情報量は薄くなるものの、粒が寝て反射が綺麗に揃います。乾燥後の色味で判断するため、テストは必ず一晩置いてから比較すると見誤りません。
ストロークとオーバーラップ
往復の重なりは3〜4割が目安です。重ね過ぎると厚みが出て曇り、少なすぎると縞が残ります。面の真ん中からではなく、端の外から入り外へ抜けると、境目が出にくく安定します。エッジは塗膜が薄くなりやすいので最後に一度だけ追い、過剰に重ねないようにします。
小物と大面積の切り替え
バーニアや武器のような小物は距離を詰めつつ圧を下げ、霧が周囲へ回らないよう集中的に当てます。大面積は距離を保ち、広いストロークで薄い層を重ねます。面の向きが変わる角度では一拍置き、霧の流れが落ち着いてから次の面に入るとムラが出ません。
乾燥と艶の管理で質感を決め切る
塗った直後の見え方で判断せず、乾燥と艶の操作で最終形を作ります。ここでは時間管理と艶の配分を決め、曇りや白化を抑えます。クリアで覆うほど安全域は広がりますが、厚みと重さが増えるため、必要最小限で整えるのが吉です。
- 湿度60%以上は避ける。必要なら除湿か時間帯変更
- 半光沢は面の荒れを隠すが、光の切れ味は落ちる
- 光沢は鋭い反射を得られるが、下地の粗が出やすい
- 艶の差を部位で変えると情報整理になる
よくある失敗と回避策
白化は湿度と厚吹きが主因です。吹き始める前にテストピースで霧の細かさを確認し、怪しい日は作業を乾いた時間帯に移すと防げます。タレは止めたい面の端で噴霧を切るだけで激減します。粉っぽさは希釈を増やし、距離を5cm伸ばすと落ち着きます。
クリアの選択で見え方が変わる
水性は白化に強く匂いが穏やか、ラッカーは乾燥が速く硬度が高い、ウレタンは平滑さと耐久性に優れます。扱いの難度や設備との折り合いで選び、どれを使う場合でも薄く複数回で攻めると安全です。艶の最終調整は光源下で判断します。
乾燥の待ち方と置き方
乾燥は塗膜表面だけでなく内部も進ませる必要があります。通気の良い場所で水平に置き、埃の落下を避けるため上から覆いをかけます。指触まで十数分でも、研ぎやクリアは一晩置くと仕上がりが安定します。
艶の差で部位を演出する
フレームや武器は光沢寄り、外装は半光沢、布風パーツはつや消しにすると質感の差で情報が整理されます。写真では異素材感が伝わりやすく、同じ色調でも立体の読み取りが楽になります。
デカールとクリア層の積層戦略
金属感を崩さずにマーキングを馴染ませるには、クリアの順番と厚みが鍵です。ここでは光沢→デカール→目的艶の基本構成を、面やサイズに応じて微調整します。銀浮きを避け、段差を最小限に抑える段取りを紹介します。
| 工程 | 目的 | 注意点 | 待ち時間 |
|---|---|---|---|
| 光沢クリア | デカールの密着向上 | 薄吹きで層を割らない | 最低1時間 |
| 貼付 | 位置決めと水抜き | 綿棒は外→内へ転がす | 完全乾燥まで |
| 艶合わせ | 半光沢〜光沢で統一 | 霧を重ねて段差を均す | 一晩 |
光沢を一層挟むだけで銀浮きが消え、メタルの輝きも保てました。段差は薄い霧を数回で均し、焦らず一晩待つと表面が落ち着きます。
Q:シールはダメ?
A:平滑な金属面なら密着しますが、厚みが出て境界が見えやすいです。面積が小さい場所や装甲の段差に限定すると違和感が減ります。
Q:墨入れのタイミングは?
A:デカール前に浅く流し、拭き取りは艶に合わせます。最後に艶を統一すると境目が落ち着きます。
Q:段差消しは研いだ方が良い?
A:薄吹きで均すのが基本。研ぐなら完全乾燥後に超微粒で軽く当て、直後にクリアを足して平滑を戻します。
大判デカールの位置決め
面の中央からではなく一辺を基準に置き、スライドしながら空気と水を追い出します。軟化剤は一度に多く塗らず、縁が馴染むのを待ってから追加すると破れにくいです。完全乾燥ののち、艶を整えて段差を消し込みます。
メタリック面の拭き取り
エナメル拭き取りは光沢下地なら安全ですが、強く擦ると曇りの原因になります。溶剤を軽く含ませた綿棒で一方向に拭い、最後は乾いた綿棒で油分を取ると安定します。
艶合わせのゴール設定
半光沢は万能ですが、武器やフレームは光沢寄りに振ると硬質感が生まれます。外装は半光沢で反射を丸めると情報が整理され、写真に落とし込みやすくなります。部位で艶差をつけても全体の統一感は保てます。
色設計と撮影で金属感を最大化する
塗り上がりをもう一段引き上げるのが色設計と撮影です。補色や温冷の差を微量に足し、光の当て方で金属の筋を強調します。ここでは色味の微調整と光源の管理をセットで扱い、完成写真までの流れをつなげます。
デメリット:やりすぎると濁りや違和感に繋がる/撮影環境の準備が要る
- メイン色の補色を極薄で一層だけ重ねる
- 光源は白色の拡散光+補助の斜光を用意する
- 撮影は離れて撮り、トリミングで画角を整える
- 艶の差を部位で変え、立体の読みやすさを上げる
補色の足し方で深みを出す
冷たいシルバーにはごく薄い青、温かいチタン風には赤味をわずかに足すと、金属の奥行きが増します。パールやクリアカラーは薄すぎるくらいから始め、乾燥後の見え方で判断すると濁りを避けられます。
背景とレフ板の使い分け
背景は無地のグレーが万能で、金属面の反射が暴れません。白レフは全体の明るさを上げ、黒レフはエッジの切れ味を出します。斜め後方からの一灯で筋を作り、正面は拡散光で整えると質感が伝わります。
仕上がりのチェックポイント
粉っぽさ、ムラ、曇り、デカールの段差、艶の不一致を順に確認します。気になる箇所は翌日に薄く一層だけ重ねると、全体の調和を崩さずに補正できます。完成写真は少し離れて撮影し、トリミングで密度を上げます。
まとめ
金属感は下地の鏡面、寝かせた粒子、そして艶の配分という三本柱で成立します。工程をむやみに増やすより、希釈と距離、待ち時間の小さな調整で再現性を高めるのが近道です。デカールは光沢で受けてから目的の艶で統一し、段差は薄い霧の重ねで均します。
色味は補色を極薄で添え、撮影は拡散光と斜光で筋を出すと、目で見た質感が写真にも乗ります。今日は小パーツで一手順だけ試し、明日は面の広い装甲へ。歩幅をそろえれば、作業時間はそのままに仕上がりは確実に伸びていきます。

