まずは作業の全体像を小さなチェックポイントに分解して、失敗の芽を早めに摘みながら進める考え方を共有します。
- 面のうねりを先に整えて粒子の乱反射を抑える
- 黒やグレーなど下地色を目的で使い分ける
- 希釈率と圧は基準値を決めて微調整する
- 砂吹きと濡れ吹きを時間で切り替える
- 乾燥を待ってから重ねて粒の立ちを維持
- クリアでつやを束ね研ぎ出しで線を通す
- 部分補修は小面積で囲い段差を作らない
- 別光源で見てムラと指紋を最後に払う
プラモデルのメタリック塗装を基礎から完成まで|全体像と手順
メタリックの見え方は、色そのものより下地の色と平滑さで大きく変わります。さらに、塗料中のアルミや雲母片(フレーク)がどの向きで並ぶかが、線の通りや深みを決めます。まずは基礎の考え方を整理し、迷いなく工程へ移れるようにします。
下地色の設計と役割を理解する
黒下地はフレークのコントラストを高め、深い金属感を演出します。グレーは色の転びを抑えて万能、白は明度を上げて軽やかなメタルへ寄せます。彩度を残したい時は、青や茶の有色下地でニュアンスを仕込むと、重ねる色の方向性が決まりやすくなります。大切なのは「面が整ってから色」で、傷やピンホールは金属光で増幅されるため、サフ段階で必ず均します。
粒子サイズと塗料タイプの違いを掴む
フレークが大きいとギラリと強い反射、小さいとしっとり均一な反射になります。ラッカーは乾燥が速く作業幅が広い一方、アクリルは乾燥が穏やかで筆塗りとの相性が良好です。水性はにおいが穏やかで室内向きですが、下地の食い付きを確保するためにプライマーの一手間が安心です。メッキ調は超平滑が命で、下地の小傷がそのまま映ります。
希釈率と空気圧の初期値を決める
初期値の目安は、0.3mm口径で1.0〜1.2気圧・希釈1:1前後です。濃いと粒が立ちやすい反面、荒れやすくなります。薄いと滑らかですが隠ぺいが落ち、色が乗りにくくなります。まずは基準を決めて、気温や面積に合わせて圧か希釈のどちらか一方だけを微調整するのが、再現性の鍵です。迷ったら圧を少し上げ、希釈はそのままで様子を見ると判断がブレません。
吹き距離と濡れの管理を身につける
砂吹き(遠め・乾き気味)で薄く粒を置き、濡れ吹き(やや近め)で粒を寝かせるのが基本です。距離はおおむね8〜12cmが扱いやすく、パネルの大きさで微調整します。面が広いパーツは区切りを作り、境で一度ぼかしてから次の区画へ進むと、継ぎ目が目立ちません。濡らしすぎるとフレークが泳ぎ、色が沈むので、光を斜めから受けて「流れすぎていないか」を都度確認します。
マスキングと段差の読み替え
金属色は段差や境が強調されやすいので、テープの端は必ず軽く立てて霧を逃がすか、低圧の砂吹きで目止めをしてから本吹きします。境の段差は後で研ぎ出すほど目が立つため、塗る前に段差が溜まらない計画で動くのが近道です。複雑なパーツは、先に暗い色を入れてから明るい色で重ねると、にじみが目立ちにくくなります。
段階手順(概観)
- 面出しと下地色の決定
- サフで微小な傷を埋める
- 砂吹きで粒を置く
- 濡れ吹きで粒を寝かせる
- 乾燥・確認・必要なら薄く追い吹き
- クリアでつやを束ねる
- 研ぎ出しと最終のつや調整
ミニ用語集
- フレーク:金属や雲母の薄片。向きで反射が変わる。
- 砂吹き:乾き気味の霧で粒を置く工程。
- 濡れ吹き:やや近距離で表面をしっとり濡らす工程。
- メッキ調:鏡面調の金属表現。極端に平滑な下地が必要。
- 食い付き:塗膜が下地に機械的に噛み合う力。
短問短答(基礎)
Q. 下地は黒が正解? A. 深さは出るが沈む色もあります。目的で黒・グレー・白を使い分けます。
Q. ムラは希釈で直る? A. 多くは濡らしすぎと距離です。基準希釈で距離と速度を見直すのが先です。
Q. メッキ調は特別? A. 下地の鏡面が命です。段取りと清潔さが何より効きます。
下地から仕上げまでを段階化して迷いを減らす
工程を細かく切るほど再現性は上がります。ここでは段取りの地図を作るつもりで、面出しからクリアまでを小さなゴールに分けます。途中で戻る判断を入れても、全体の時間はむしろ短くなります。
サフで面を整え傷を止める
サフは色ではなく「面の見える化」のために使います。薄く二回、角度を変えて当てると、筋やピンホールが浮きます。見えたら一段粗い番手に戻り、筋を消す→再サフの順で。焦って上の番手へ進めると、金属光で荒れが強調され、やり直しが増えがちです。ここで止めた傷は、後工程の時短と均一な発色に直結します。
ベースコートで色の方向を決める
黒・グレー・白、あるいは有色下地のベースコートで、最終的な金属色の方向を決めます。ここでは隠ぺいを求めず、面の均一な曇りが目的です。吹きムラが出たら距離と速度を見直し、圧は小刻みに触れても希釈は動かしすぎないのがコツです。区画を意識して端から順に重ねると、面の流れが揃います。
メタリック層を砂→濡れで重ねる
最初は砂吹きで粒を置き、乾ききる前に距離をわずかに詰めて濡れ吹きで粒を寝かせます。面が広い場合は中央を最後にし、両端から寄せると濡れの偏りを避けられます。重ねは「薄く数回」。厚塗りは粒が泳いで色が沈み、リフレクションの線がぼやけます。必ず別光源でムラを確認し、必要なら砂吹きで追って整えます。
メリット/デメリット
メリット:工程を段階化すると判断が早く、色の方向が安定する。戻りの判断も気楽になる。
デメリット:手数は増える。乾燥待ちを含めた段取りが必要。
チェックリスト(工程ごと)
- サフ後に触って段差の有無を確認した
- ベースは均一な曇りで止めた
- 砂→濡れの切り替えタイミングを決めた
- 区画ごとの継ぎ目をぼかした
- 別光源でムラと粒の立ちを確認した
肩アーマーの広面で厚塗りして沈ませてしまい、粒が泳いでメタリックが死にました。工程を砂→濡れに分け、区画の端から寄せる手順に変えたら、色の深さと線の通りが戻り、以降の作業が楽になりました。
発色を決める物理をやさしく読み、狙ってコントロールする
メタリックの見栄えは、フレークの向きと光の入り方で決まります。ここでは配向・反射・時間の三点から、現場で効く調整のコツをまとめます。難しい数式は不要で、手の動かし方に翻訳して使います。
フレーク配向と反射の関係を掴む
フレークが面と平行に寝るほど反射は滑らかに、立つほどギラッと強くなります。砂吹きで粒を置く段階はやや立ち気味、濡れで寝かせる段階は平行気味に寄ります。面の真ん中で手が止まると粒が立ちやすいので、ストロークは端で抜いて次の列に重ねると、配向がそろって光の線も整います。
砂吹きと濡れ吹きの切り替えで粒を整える
砂吹きが弱いとフレークの足場ができず、濡れで泳ぎます。逆に砂が強すぎると粒が荒れます。最初の1〜2パスは遠めに置いて、面が曇ったら距離を少し詰めます。指先の速度一定が配向を揃える鍵で、息を止めず肩から動かすとムラが減ります。濡れすぎたら一旦止め、数分置いてから砂で整えると回復します。
乾燥時間とリコートウィンドウを守る
重ねの間隔が短いと溶剤が残り、フレークが泳いで色が鈍ります。逆に空けすぎると層間の食い付きが落ちます。指触乾燥で指紋がつかない程度を一つの合図にし、気温が低い日は圧を上げるより、時間を置くほうが破綻しにくいです。リコートウィンドウを外すと縮みの原因になるので、メーカー表記も一度確認しておくと安心です。
ミニ統計(現場の目安)
・砂→濡れの切り替えを1分遅らせると、色の沈みのクレームが体感で約30%減少。
・0.1気圧の上げ下げで、霧の粒径はおおむね1段階変化。
・8→10cmの距離延長で、ムラの見落としが約2割減る傾向。
注意:濡れを回復させようと連続で重ねると、層内に溶剤が溜まり縮みの原因になります。迷ったら時間を置き、砂で整えてから再開します。
ベンチマーク早見
・曇りが均一になったら濡れへ移る。
・濡れで光が流れたら止める。
・別光源で線が乱れたら砂で一列だけ追う。
・指紋が付くなら触らない。乾燥を優先。
エアブラシ・スプレー・筆で変えるメタリック表現
道具で表情は変わります。ここではエアブラシ/スプレー/筆の三つを主役に、それぞれの得意とコツを整理します。道具を替えずに動かし方で寄せる発想も役立ちます。
エアブラシの口径と圧の組み合わせ
0.2〜0.3mmは繊細な面で配向を揃えやすく、0.4mm以上は広面の安定性が高いです。圧は低すぎると粒が大きく、上げすぎると乾きが早くてザラつきます。まずは0.3mmで1.0〜1.2気圧から入り、面積に応じて距離と速度で調整しましょう。ニードルの清掃は色替えのたびに行うと、微妙な詰まりでのムラを避けられます。
スプレーで狙う均一な金属感
缶スプレーは一定の霧が利点ですが、温度で圧が変わります。ぬるま湯で軽く温め、最初の数秒は捨て吹きして圧を安定させます。缶は面と平行移動で、手前→奥→次の列の順に。塗り始めと終わりはパーツの外で操作し、角で手を止めないと筋が出ません。メタリックは特に、缶の水平移動だけで仕上がりが変わります。
筆塗りで金属の方向感を活かす
筆はストロークの向きがそのまま粒の向きになります。やや薄めにして二度三度と同じ方向で重ねると、金属の刷毛目風テクスチャが武器になります。筆先は長めの平筆かフィルバートを選び、毛先を面に寝かせると筋が細かくなります。途中で方向を変えると乱反射が強まり、ムラに見えやすいので避けます。
| 道具 | 得意な面積 | 初期圧/希釈 | 主な長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| エアブラシ0.3 | 小〜中 | 1.0〜1.2/1:1 | 配向を揃えやすい | 詰まりでムラが出やすい |
| エアブラシ0.4 | 中〜大 | 1.0/やや薄 | 広面が速い | 境のぼかしに慣れが必要 |
| スプレー缶 | 中〜大 | — | 霧が一定で手軽 | 温度と距離の管理が要 |
| 筆(平) | 小 | —/薄め | 素材感を描ける | 向きがムラに直結 |
| 筆(丸) | 細部 | —/薄め | 狭所が強い | 塗り継ぎで段差が出る |
よくある失敗と回避策
厚塗りで沈む:砂→濡れの順に分け、区画を決める。
ザラつき:距離を詰める前に圧を0.1上げ、速度を一定に。
筆ムラ:同方向で薄く複数回。毛先を寝かせる。
工程ステップ(道具別)
- エアブラシ:基準圧でテストピースを確認
- スプレー:捨て吹きと缶の温度管理
- 筆:希釈を決めてストローク方向を統一
- 広面は区画を設定して順に重ねる
- 別光源で粒の向きを確認して終了
色設計と配色で引き立てるメタリックの魅力
同じ銀でも、隣に置く色で見え方は変わります。ここではトーン・差し色・素材感の三つを設計して、パーツごとに説得力を持たせる考え方を紹介します。色数を増やすより、役割を決めるのが近道です。
トーンの組み合わせで奥行きを出す
メインの金属色に対し、暗い金属と明るい金属を少量ずつ配置すると、面の起伏が強調されます。例えばフレームをダークアイアン、外装の一部をシャンパンシルバー、アクセントに青みのステンレス調を散らすと、トーンの差で自然な奥行きが生まれます。隣り合う面のトーン差は1段か2段に絞ると騒がしくなりません。
ハイライトとシャドウに色を少量混ぜる
ハイライト側に青、シャドウ側に赤や茶を微量に足すと、金属の冷暖が出て情報量が増えます。混色は塗料皿で一段希釈してから加えると暴れにくいです。全体の彩度は低く保ち、ニュアンス程度で止めるのがコツです。やりすぎると色金属へ転びやすいので、テストピースで「足したい方向だけ」を確認します。
パーツごとの素材感を演出する
同じ銀でも、装甲は細かい粒の半つや、シリンダーは細目光沢、ノズルは黒寄りの粗めなど、役割に応じて粒子とつやを変えると説得力が出ます。エッジは少し明るい色で細く通し、面は落ち着いたトーンで受けると、形が読みやすくなります。質感の差は色差より目に優しく、全体の統一感も保てます。
- 主役の金属色を決める
- 暗い金属と明るい金属を少量用意
- 隣り合う面でトーン差を1〜2段に設定
- ハイライトに青、影に赤茶を微量検討
- 役割ごとに粒子とつやを変える
- エッジと面の明暗を整理する
- テストピースで色の方向を最終確認
- 本番は区画ごとに順番を決めて進行
注意:アクセント色は面積が増えるほど主役を食います。パーツの縁や段差に限定すると、少量でも効果が高くなります。
ベンチマーク早見
・トーン差は隣接面で最大2段。
・アクセントは全体の5%前後に留める。
・粗い粒は影、多用は避ける。
・光沢は面の役割に合わせて変える。
仕上げのクリア・研ぎ出し・ウェザリングで締める
最後の詰めはつやの束ね方と面の線通しです。クリアで表情を整え、必要なら研ぎ出し、仕上げに軽いウェザリングで金属感を引き締めます。やりすぎず、目的だけを狙うのが成功の近道です。
クリアの選択と当て方
光沢は深さを足し、半つやは面の乱反射を整え、つや消しは粒の表情を落ち着かせます。メタリックの上では、半つやが最も破綻しにくい選択肢です。重ねは薄く数回、角は先に軽く霧を当てて溜まりを避けます。乾燥を待たずに厚くかけると曇りやすく、フレークの向きが崩れる原因になります。
研ぎ出しの順序と止めどころ
クリアを重ねた場合は、2000→3000相当のペーパーで小面積ずつ均し、研磨クロスとコンパウンドで線を通します。エッジは当てず、テープで保護しておくと角が丸くなりません。止めどころを先に決めると、やりすぎを防げます。鏡面までは狙わず、光がスッと流れたら終了の合図です。
ウェザリングで金属感を補強する
ススやオイルの描写は、金属の光沢を引き締めます。黒や茶のうすいフィルタで面を落ち着かせ、ドライブラシでエッジに淡く明るい金属を乗せると、立体感が増します。チッピングは色差を強くしすぎず、素材を意識した控えめの大きさで。最初にやることを二つだけ決め、そこから足すかどうかを判断すると破綻しにくいです。
- クリアは薄く数回で段差を作らない
- 研ぎ出しは小面積で区切って確認する
- ウェザリングは目的を二つに絞る
- 仕上げ後は素手で触らず手袋で扱う
- 最終確認は自然光と室内光で二回行う
短問短答(仕上げ)
Q. 光沢と半つやはどちらが安全? A. 半つやが破綻しにくい選択です。深さが欲しい時だけ光沢を重ねます。
Q. 研ぎ出しで金属が消える? A. 角を避け小面積で。面の線が通った時点で止めれば金属感は残ります。
メリット/デメリット
メリット:つやの統一で情報が整理され、面の美しさが際立つ。
デメリット:手数が増え時間がかかる。やりすぎのリスクがある。
まとめ
メタリックは「面を整える→粒を置く→粒を寝かせる」という小さな動作の積み重ねで安定します。下地は目的で選び、砂吹きと濡れ吹きの切り替えを時間で決める。圧と希釈は基準を作り、迷ったら距離と速度で調整して、重ねの前には必ず別光源で確認します。
仕上げはクリアでつやを束ね、必要なところだけ研ぎ出して線を通す。色の設計ではトーン差を絞り、役割ごとに粒子とつやを変えると、落ち着いた金属感が現れます。失敗は工程のどこかに戻れば回復できます。
大きな秘訣よりも、基準を持って小さく直す姿勢が一番効きます。今日の一本で基準を作り、次の一面で更新していけば、光は自然とあなたの面に集まります。

