素組みでも十分に映えるけれど、自分の好きな色でもっと格好よく仕上げたい。そう思った瞬間から塗装の世界が始まります。とはいえ工程が多く、道具も言葉も独特で戸惑うことは少なくありません。この記事では下地づくりから色づくり、仕上げまでを一連の流れで整理し、同じやり方を繰り返すだけで安定して整う“作業の基準”をつくります。読み終えるころには、明日どの順で何を準備し、どこに気を配ればよいかがすっきり見えているはずです。
- 最初に整えるべき面とエッジを具体化し、段取りを軽くします
- 道具と塗料の相性を押さえ、ムリのない組み合わせにします
- 色の設計と塗り順を決め、マスキングの負担を減らします
- トップコートとウェザリングで質感を狙い、作品を締めます
ガンプラの塗装を基礎から実践へ|段取りと実践
仕上がりを左右するのは、実は手数の多さではありません。工程の順序と判断ポイントを決め、毎回同じ確認を繰り返すことが大切です。ここでは全体像を一望し、どの段階で何を「終わり」にして次へ渡すのか、基準線を引きます。下地→色→保護→質感という流れを柱に、失敗しにくい分割と時間配分を提案します。
表面処理とゲート跡の整え方
合わせ目やゲート跡は塗装で隠しきれないため、最初に片付けます。400〜600番で段差を落とし、800〜1000番で均し、最後に洗浄して粉を流します。丸面は曲面用のやすりで当て方を変え、エッジは角を寝かせないよう指の当て方を固定します。ここで触感まで滑らかにしておくと、後の色乗りが早く整います。
洗浄と乾燥の基本
パーツ表面の離型剤や油分が残ると弾きの原因になります。中性洗剤で短時間にやさしく洗い、なるべく触らずに自然乾燥します。エアダスターやドライヤーは使い方次第で埃を呼ぶため、距離と風量を控えめに。乾燥後は糸埃が乗りやすいので、ケースや箱で保管し、塗装直前に軽くブロアで払います。
サーフェイサーの目的を明確にする
サフは色を明るくするための白、傷を埋めるための厚め、発色を落ち着かせるグレーなど役割で使い分けます。傷消しなら粒子がやや粗いタイプを距離を取って砂吹き→一拍置いてなじませる流れが有効。カラーをクリアに見せたいときは白や薄グレーで下地を整え、彩度を保ったまま塗膜を薄く重ねます。
塗り順と色設計の考え方
明るい色ほど透けやすく、暗い色ほど隠ぺい力があります。基本は明→暗の順で、外装の面積が大きい色を先に。パーツ分割を見て、マスキングを少なくできる塗り順を優先します。色設計は三色(主色・サブ色・アクセント)を軸に、トーン差を一定に保つとまとまりやすく、トップコート後の質感調整もしやすくなります。
乾燥と研ぎ出しの分岐
光沢で仕上げる場合は、各層を十分に乾燥させ、ホコリを軽く研いで平面性を確保してから次層へ進めます。半光沢やツヤ消し狙いなら、研ぎは控えめにして塗膜の凹凸とトップコートのマット感で質感を整えます。いずれも「次へ渡す前の合格ライン」を決めておくと、必要以上に手数が増えません。
- パーツの整形と番手上げ
- 洗浄と乾燥の徹底
- サーフェイサーで下地統一
- 主色→サブ色→アクセントの順に塗装
- 保護クリアとデカール貼り
- トップコートで質感調整
- エッジは立っているか、丸め過ぎていないか
- 洗浄後に手で触れていないか
- サフで傷と地色の段差を消せたか
- 塗り順はマスキングが少なくなるか
- 乾燥時間は塗料ごとの推奨を守ったか
Q:サフは毎回必要?
A:色の乗りや傷の状態次第です。成形色が濃いときや傷が多いときは使うと安定します。
Q:部分塗装でも洗浄は要る?
A:必要です。手の脂や埃で弾きや密着不良が起きやすくなります。
Q:乾燥は何分置けばいい?
A:塗料の種類と膜厚で変わります。ラッカーは数十分〜、重ねる前に指触乾燥+αを目安にします。
道具と塗料の選び方を整理する
道具は性能より相性です。作業環境(音・換気・スペース)と塗りたい表現を軸に選ぶと、無理が減って上達が早まります。塗料は乾燥の速さや強度、匂いで特徴が分かれます。ここではエアブラシと筆の使い分け、ラッカー・アクリル・エナメルの性格、薄め液と洗浄の要点をまとめます。
エアブラシと筆の使い分け
広面積やグラデーションはエアブラシが得意で、狭所の塗り分けやチッピングは筆が強い場面です。時間や騒音の制約があるなら筆中心でも十分に映えます。両者を対立させず、面は吹いて縁や小物は筆で決める二刀流を基本にすると、仕上がりの自由度が上がります。
ラッカー・アクリル・エナメルの違い
ラッカーは乾きが早く強度が高い反面、匂いと溶剤が強め。アクリルは扱いやすく臭気も穏やかですが、重ねに弱い銘柄もあります。エナメルは拭き取りやスミ入れに向き、乾燥が遅いぶん調整しやすい特徴があります。層ごとに役割を決めると失敗しにくくなります。
薄め液と洗浄の基本
塗る・洗う・保管の三つの場面で薄め液は用途が違います。希釈は塗料に指定のものを合わせ、洗浄は分解度と時間で強さを変え、保管は密閉と揮発対策を徹底します。スポイトや計量カップで比率を数値化しておくと、翌日の再現がぐっと楽になります。
- エアブラシ:面の均一性とグラデ表現が容易
- 筆:騒音ゼロで狭所やチッピングが自由
- ラッカー:乾燥と強度が高く工程が進めやすい
デメリット
- エアブラシ:設置と清掃の手間、溶剤管理が必要
- 筆:ムラや筆目の制御に慣れが要る
- ラッカー:匂いと溶剤の強さに配慮が必要
- デカール軟化剤
- 凹凸に沿わせる補助剤。銀浮きを防ぎ密着を高める。
- フラットベース
- ツヤを落とす添加剤。比率で半光沢〜ツヤ消しを調整。
- フローインプルーバー
- 筆塗りの筆目を抑える添加剤。乾燥を遅らせて均す。
- リターダー
- 乾燥を遅らせる溶剤。光沢やレベリングに効果的。
- プライマー
- 樹脂や金属に密着性を与える下塗り剤。
下地づくりとサーフェイサーの活用
塗膜は土台の上にしか乗りません。わずかな段差や傷は、色を重ねるほど目立ちます。そこで下地に時間を投資し、薄塗りでも面が締まる状態をつくります。番手の選択、サフの色、吹き方のではなく積層の厚み管理が決め手です。無理に隠さず、隠すべき箇所だけに厚みを与える発想に切り替えます。
番手の選び方と当て方の基準
成形の荒れや合わせ目は400〜600で段差を落とし、800で均し、1000〜1200で塗装前の足付けを兼ねます。曲面はスポンジやすり、平面は当て木を使い分け、指の圧を一定に。削り粉は水研ぎで流し、乾燥後に光へかざして傷の残りを確認します。均一な反射になれば合格です。
サフの色と厚みのコントロール
白サフは発色が明るくなり、グレーは色味を落ち着かせます。ブラックは金属色やキャンディに向きます。厚みは二往復で止め、一拍置いてから薄く重ねます。傷埋め狙いなら最初は遠目から砂吹きし、毛羽立ちを落ち着かせてから近づけます。厚塗りの一回より薄塗りの三回が安全です。
段差とピンホールの見つけ方
サフ後に弱い光を斜めから当てると段差が見つかります。指の腹でなでて引っかかりがないか触感でも確認。ピンホールは瞬着パテを薄く伸ばし、硬化後に1000番で均して再サフ。ここを妥協すると、どの色も濁って見えます。
| 用途 | 推奨番手 | ポイント | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 合わせ目消し | 400→600→800 | 段差を落として面を整える | 逆光で線が消えたか |
| 面出し | 600→800→1000 | 平面は当て木でエッジを守る | 光の帯が均一か |
| 下地統一 | 1000〜1200 | 足付けと小傷隠しを兼ねる | ざらつきが消えたか |
| 傷埋め | サフ厚盛り | 砂吹き→一拍→近距離 | 段差がなめらかか |
よくある失敗と回避策
厚塗りでモールドが埋まる:薄く重ね、埋まったら彫り直してから再サフ。
粉っぽい:距離が遠いか希釈不足。近づけて希釈を上げ、一拍置いてなじませる。
色ムラ:サフの色が混在。全体を同色で統一してから色に入る。
色づくりと塗り分けのテクニック
色は勘ではなく、比率とトーンで再現します。三色設計(主・副・差し色)で明度と彩度の差を一定に保つと、写真映えも現物のまとまりも両立します。マスキングは“残したい線”を先に作る発想へ切り替え、剥がす方向と塗り重ねる順で失敗を減らします。
配色の三角形を作る
主色70%・副色25%・差し色5%を目安に配分を決め、各色の明度差を一段以上離します。試し吹きカードを並べ、部品の上に重ねて距離と光で確認。トップコート後に落ちる明度も想定し、狙いより一段だけ明るいところで止めておくと、仕上がりが狙いに近づきます。
マスキングの考え方
塗りたい線の終点を先に作り、そこへ向かって色を重ねます。ライン部は薄く霧を重ねて境界へ吹き込みすぎないよう注意。段差が気になるときは、境界に薄いクリアを通してから次色に移ると段差が和らぎます。剥がしは塗膜が完全硬化する前の半乾燥が安全です。
グラデーションと影の入れ方
外装の広い面は、同色の明暗で面を分けると立体感が増します。下地に暗いトーンを置き、上から主色を薄く重ねて影を残す「下地残し」。あるいは主色の後に一段明るいハイライトをエッジへ軽く通す「エッジ明度上げ」。どちらも過剰にせず、写真で確認しながら調整します。
- 寒色×無彩色で機械感を強調
- 暖色を差し色にして視線を誘導
- トーンは暗・中・明の三段を用意
- 同系三色で段差を細かく調整
- 金属色は黒下地で密度を上げる
- クリアカラーで色相を微調整
- デカール位置から配色を逆算
色が決まらず進めないときは、試し吹きカードをフレームに差し込んで遠目に見る。机の光ではなく、部屋の反射まで含めた距離感で判断すると、迷いが一段で消えます。
- 主色の隠ぺいは2〜3往復で止める
- 影色は主色の−1〜−2明度を目安
- 差し色は面積5%前後で効きが出る
- マスキング剥がしは半乾燥で実施
- 試し吹きは各色ごとに三段階で保存
メタリックと光沢仕上げを安定させる
メタリックは粒の向き、光沢は平面性が命です。どちらも圧と距離、希釈とレベリングのバランスが整うと一気に安定します。ここでは均一な粒子の寝かせ方、ゴミの管理、クリア層の積み方を段階で示します。
メタリック粒子を寝かせる手順
下地を黒で整え、低圧で霧を細かく。最初は薄く砂吹きして食いつきを作り、その後は距離を保って均一に流します。最後に一段希釈を上げて軽く流すと、粒が平行に寝て反射が整います。吹き過ぎはツブれの原因なので、光を斜めに受けて確認しながら止め時を見極めます。
クリアの積層と研ぎの分岐
半光沢までなら薄く二層で十分。鏡面狙いはミスト→ウェット→一拍→ウェットの三段で膜厚を作り、完全乾燥後に1500〜2000番でゴミだけを取ってコンパウンドで均します。焦って厚塗りすると溶剤ヤケやヒケの原因になるため、日をまたいで進めるのが安全です。
埃とブツへの対策
作業前にミストを軽く流して空気中の埃を落とし、衣服や髪を整えます。乾燥中は箱やケースで覆い、起伏のある場所に置かない。ブツが出たら無理に触らず、完全乾燥後に点だけを研ぎ、クリアを薄く補います。局所対応こそ仕上がりを守る近道です。
- 黒下地で面の粗れを消す
- 低圧・距離一定で砂吹き→軽く流す
- 希釈を上げて最終の整えを一往復
- クリアは三段で膜厚を作る
- 乾燥後に点研ぎと磨きで仕上げ
- 試し吹きカードで粒感と光沢を確認
- 同じ距離・同じストロークで往復
- 圧と希釈は一段ずつだけ動かす
仕上げの保護とトップコート、ウェザリング
色が決まったら守りと質感です。保護クリアでデカールを固定し、トップコートで最終のトーンを整えます。そこから先のウェザリングは“物語の追加”。やり過ぎず、情報量の増減で視線をコントロールします。
トップコートの選び分け
ツヤ消しは情報量を整理し、半光沢は素材感を残し、光沢は色味と密度を引き上げます。外装は半光沢、フレームはツヤ消し、センサーや装飾は光沢など、部位で変えると立体感が上がります。気温と湿度によってカブりが出やすいので、天候の悪い日は無理せず延期も選択肢に。
ウェザリングの順序
大きな汚れ→中くらい→点の順で情報を載せます。フィルタリングで全体のトーンを整え、ウォッシングで凹に影を入れ、チッピングでエッジへ金属感を足す。最後にピグメントで土や煤の質感を置きます。乾燥を挟み、引き算で戻せる手法から進めるのが安全です。
保管と持ち出しの工夫
完成直後は塗膜が落ち着いていないため、ケースに入れて直射と高温を避けます。イベント持ち出しは土台をネジ止めし、揺れで塗膜とデカールへストレスがかからないように。トップコート後も数日は指紋が残りやすいので、素手での長時間の接触は避けます。
- フィルタリング
- 全体の色味を薄く動かす処理。面ごとの温度差を整える。
- ウォッシング
- 凹へ薄い塗料を流して陰影を作る。拭き取りでエッジが立つ。
- チッピング
- 角や当たりに小傷を置く表現。金属色と下色の二段で効く。
- ピグメント
- 粉末顔料。土埃や煤を質感で追加。定着剤で固定する。
- ブリスターパック保管
- 防塵の簡易ケース。輸送時の擦れ防止にも有効。
- つや消し:情報量を整理/指跡は出にくい
- 半光沢:素材感が残る/万能で調整しやすい
- 光沢:色が深く見える/埃と傷に敏感
Q:デカールはいつ貼る?
A:保護クリアの前。段差が気になるときはクリア→研ぎ→再クリアで馴染ませます。
Q:トップコートで白化したら?
A:温風で軽く温めると戻ることがあります。無理なら後日に薄く重ねて補正します。
Q:ウェザリングでやり過ぎたら?
A:薄い溶剤で拭き戻すか、上からフィルタリングでトーンを整えます。
まとめ
塗装は才能より段取りです。下地で面を決め、色は比率で設計し、保護と質感で締める。工程ごとに「ここまで」を決めると迷いが減り、同じ手順を重ねるほど再現性は上がります。筆とエアブラシは得意分野が違うだけで、合わせて使えば表現は一気に広がります。
今日の作業台にある道具でひとつだけ改善点を決め、カードに記録しながら進めてみてください。次の一体は、同じ時間でも確かに一段良くなります。その積み重ねが、あなたの作品の“らしさ”を作っていきます。

