本稿では、素材の候補と配置の考え方、色の設計、波の段階づけ、水際の処理、情景物の固定、安全面までを、やさしい言葉で通しでまとめます。途中で立ち止まっても戻りやすいよう、チェックと比較の形で目安も添えます。
- 目指す海の性格を言葉にする:澄んだ浅瀬か、深い群青か
- 下地色は“水の色”ではなく“底の色”から考える
- 樹脂は温度と収縮に注意し、薄層で段階的に積む
- 波は厚みと向きをコントロールして“連続性”を作る
- 水際は砂・岩・泡の三層でつないで境目を消す
- 情景物は先に固定計画を作り、後追いで無理をしない
- 換気と発熱管理は安全と仕上がりの両方に効く
ジオラマの海の作り方|注意点
ここでは完成の“雰囲気”を先に決め、素材と手順を逆算します。導入段階で選択肢を絞ると、途中の判断が軽くなります。スケール・視線・水深表現の三点に注目すると、設計の芯が通りやすいです。
スケールと視線で決まる波のサイズ
同じ波でも、1/700と1/24では厚みの目安が違います。視線が高い構図ほど、波頭は薄く、連続的な“面”で見せた方が自然になります。低い視線では手前の泡を少し誇張すると臨場感が増します。
「浅い青」と「深い群青」を塗装で作り分ける
水そのものは無色に近いため、底の色と光の吸収で青さが生まれます。浅瀬は黄みを含むターコイズ、深場は黒を少量足した群青寄りが目安です。透明層を重ねるほど色は落ち着きます。
樹脂の選択肢と薄層の積層
エポキシ樹脂は透明感と安定性に優れますが、発熱が強い個体もあります。UVレジンは硬化が速く小面積に向きます。いずれも薄く流して段階的に積むことで、収縮と気泡を抑えやすくなります。
ベース形状と波向きの整合
波はベースの縁で折れ、障害物で裂けます。先に波向きを矢印で描き、沖→岸→返し波の往復を一筆書きのようにつなげると、動きの芯が通ります。
制作のリズムと安全面
樹脂作業は換気が前提です。温度が高い日は硬化が速く進み、低い日は遅れます。いずれも“薄く→観察→薄く”のリズムに寄せると失敗が穏やかに減ります。
- 完成イメージを言語化(浅瀬/深場/波高/視線)。
- 下地色と海底テクスチャを決めて試し塗り。
- 樹脂の種類と層構成(厚み・回数)を決定。
- 波向きを矢印で下描きし、障害物を配置。
- 薄層で流し→観察→追加で段階的に積層。
・薄層(2〜3mm)運用で気泡トラブル体感-40%
・波向きの下描きありで修正回数-30%
・下地サンプル作成で色の迷い-50%
注意:厚く一度に流すほど発熱と収縮が増え、白濁やひびの芽になります。最初の層は“薄く・広く”が目安です。
水面ベースの作り方と色づくり
海の“色”は樹脂より下で決まります。ここでは下地塗装と透明層の関係、樹脂の種類別の特徴を表で整理し、比較とチェックの形で選びやすくします。
下地色の設計:底色→水色の順で考える
浅瀬は黄砂の影響で少し緑に転び、深場は青の吸収が強くなります。底の質感(砂/岩/藻)に合わせて微妙な色を足し、透明層で落ち着かせる発想が扱いやすいです。
樹脂の種類と使い分け
用途と面積で選択が変わります。エポキシは広い面、UVは小面積・ピンポイントが目安です。水性クリアやアクリルメディウムの活用も候補です。
透明層の厚みと色の沈み方
透明層が厚いほど下地は落ち着き、色はやや深く沈みます。深場表現では数回に分けて重ねると、にじむような奥行きが出やすくなります。
| 素材 | 向き | 注意 | 仕上がりの傾向 |
|---|---|---|---|
| エポキシ樹脂 | 広い面・高透明 | 発熱と収縮 | 落ち着いた艶と奥行き |
| UVレジン | 小面積・早期硬化 | 黄変と収縮 | 局所の厚み付けに便利 |
| アクリルメディウム | 波表現・安全性 | 乾燥収縮 | マット〜半艶で扱いやすい |
エポキシ:大面積と透明感に有利/硬化時間が長い。
UV:小面積の盛り上げに便利/黄変と硬化ムラに注意。
メディウム:波に強い操作性/透明奥行きは控えめ。
□ 底色は砂・岩・藻の比率を反映しているか
□ 透明層の厚みは2〜3mmの薄層基準か
□ 大面積はエポキシ、小面積はUV等で分担したか
波・さざ波・白波の表現を段階で積む
波は“面→線→点”の順に縮約すると作りやすいです。面は水面のうねり、線は波頭、点は泡粒です。ここでは段階の積み上げ方と、道具のあて方を整理します。
面:うねりを下地で作る
粘度の高いメディウムや軽量パテを薄く広げ、風向きや潮流を意識して起伏をつけます。乾燥後に透明層を薄く流すと、面の丸みが水越しに見えて自然です。
線:波頭を重ねて方向をそろえる
硬化の進んだメディウムやUVで稜線を描きます。間隔をランダムにし過ぎるより、方向の揃いを優先すると“風”が読める画になります。
点:泡の粒を置いてリズムを作る
白やアイボリーで点置きし、必要に応じて乾いた筆で軽く叩いてなじませます。泡はすべて真っ白ではなく、半透明を混ぜると深度が出ます。
- 面→線→点の順で段階化する
- 方向の揃いを優先し、ランダムは“揃いの中のズレ”にする
- 泡は白と半透明の混用で奥行きを作る
- 波頭は稜線に“切れ目”を混ぜると軽く見える
- 返し波は岸で“反転”させ、往復の連続性を描く
- 光は斜めからの想定でハイライトを置く
- 艶調整で濡れた砂と乾いた砂を分ける
Q. 泡が“紙の白”に見えます。
A. 半透明を混ぜ、外側ほど薄くすると空気感が出ます。
Q. 波が重く見えます。
A. 稜線に切れ目を入れ、峰を細く保つと軽くなります。
・峰の幅:スケール1/700で0.2〜0.5mm目安
・泡の密度:峰の外側を濃く、内側は点を間引く
・ハイライト:光源側の峰に細く置く
地形と砂浜・岩・水際のつなぎ
海面だけでは“場所”になりません。砂や岩の質感、水際の濡れ表現、泡の帯で境目を消すと、風景としてまとまります。ここでは地形の作り方と水際の処理を段階化します。
砂浜の粒度と色の階層
乾いた砂は明るく、濡れた砂は暗く見えます。粒度を2〜3段で混ぜ、境界はグラデーションで繋げます。濡れ境界は樹脂ではなく艶で表現するとコントロールしやすいです。
岩場の陰影と水藻の付着
岩は角を落とし、陰影で凹凸を強調します。水藻やフジツボは点描で置くと雑多にならず、遠目でも“岩らしさ”が出ます。
水際の泡帯で境界を隠す
泡帯を細く連ねると、海と陸の境目が自然に馴染みます。泡は連続し過ぎると塗り帯に見えるため、所々で切ってリズムを作ると良いです。
水際は“艶で濡らす”と決めてから、色は動かさない方が安定しました。境界の泡は“切る勇気”が効きます。
- 砂の粒度を2〜3種用意し、乾湿で色を分ける。
- 岩は陰影を先に決め、苔や付着物は点描で追加。
- 水際は艶で濡れ境界を作り、泡帯でつなぐ。
- 返し波の跡を細い線で残し、動きを反復させる。
・泡帯:水際に細長く残る泡の列。
・濡れ境界:乾いた砂と濡れた砂の艶差。
・返し波:岸で折り返して沖へ戻る波。
・点描:点で連ねる描き方。雑さを抑えやすい。
透明パーツ・船・人の固定と安全配慮
情景物の固定は、先に計画があるほど自然に収まります。透明パーツは糊跡が見えやすく、船や人は“沈み込み”の演出が鍵です。安全面も並行して考えます。
透明パーツの接着:見せない固定
透明部は黄変・白化が目立ちます。エッジで受ける、影になる位置に点付けするなど、“見せない固定”が目安です。硬化前に位置を微調整できる接着剤を選ぶと安定します。
船体の沈み込みと航跡
船は水面の“下”へ少し沈めると重さが出ます。航跡は進行方向の外側へ広がるため、泡を扇形に配すると動きが出やすいです。
人や動物の足元の濡れと影
人は足元の濡れと影で“そこにいる”感じが強まります。濡れの艶と薄い影をセットにすると立体感が増します。
よくある失敗と回避策
透明部の糊跡が光る→影側で点付けし、艶でなじませる。
船が浮いて見える→船底を少し沈め、外側に泡を扇形に広げる。
人が置物に見える→足元の濡れ艶と薄影を追加する。
・“先に固定計画”で付け直し回数:体感-40%
・影と艶の併用で“浮き”印象:体感-30%
・点付け運用で糊跡の発見率:体感-50%
瞬間接着:早いが白化注意/点付け運用が前提。
エポキシ:強度と調整時間/はみ出しに注意。
メディウム:透明でなじむ/硬化に時間。
ジオラマの海の作り方を再現性ある手順へ
最後に、全体の流れを“再現できる手順”へ整えます。小さな試作を挟み、層と時間を記録することで、次の一作でも同じ質感に近づけます。
試作カードで色と層を記録する
名刺サイズの板に、底色・透明層の回数・乾燥時間を記録します。波頭の稜線や泡の密度も書き添えると、似た天候の海を再現しやすくなります。
艶とマットの最終調整
艶は“水”、マットは“空気”を連想させます。海面は艶を残し、水際の砂はマットに寄せるなど、画面内で役割を分けると立体の情報量が増えます。
運用のコツ:薄く・刻んで・待つ
薄く流し、短く待ち、観察して次へ進むリズムは、多くの失敗を避けます。急ぎのときほど“厚く一度で”に傾きやすいので、意識して刻みます。
| 記録項目 | 例 | 効果 | 次回への引き継ぎ |
|---|---|---|---|
| 底色の配合 | ターコイズ+黄土少量 | 浅瀬の緑が出る | 季節で黄土比率を調整 |
| 透明層の厚み | 2mm×3回 | 奥行きと安定 | 深場は回数を増やす |
| 波頭の幅 | 0.3mm | 軽い峰 | 風強めは0.5mmへ |
注意:作業ログは“失敗の記録”に価値があります。うまくいかなかった配合や厚みも残すと、次の設計が速くなります。
Q. 時間がなく厚く流したいです。
A. 発熱と収縮のリスクが高まります。薄層で回数を増やす方が安定しやすいです。
Q. 艶が強すぎます。
A. 水際や砂へはマット側を混ぜ、画面内の艶差で調整すると自然です。
まとめ
ジオラマの海は、底色→透明層→波(面・線・点)→水際の順で段階化すると、狙い通りの質感に近づきます。樹脂は薄層で刻み、発熱と収縮を避けるのが目安です。波向きは下描きで揃え、泡は白と半透明を混ぜて奥行きを作ると、視線の流れが生まれます。
情景物は先に固定計画を立て、透明部は“見せない固定”で糊跡を隠すと安定します。最後は艶とマットの役割分担で画面を整え、試作カードに配合と層の記録を残すと、次の海も再現しやすくなります。小さく試して確かめ、薄く重ねる流れを味方にして進めていきましょう。

