メタリックは「輝き」と同時に「面の乱れ」も写し取ります。だからこそ下地と粒子、希釈と圧、そして艶の整え方を小さく固定すると、同じ道具でも仕上がりが安定します。光を跳ね返す金属色は模型を一段引き締め、写真でも情報量を増やします。ただ、濃く乗せすぎると粒がダマになり、淡すぎるとプラの地肌が見えて頼りなくなります。この記事では発色の設計を数値と順番で結び、翌日に自然光で見直せる運用へ落とし込みます。まずは道具の癖を把握し、狙いの艶と粒感を再現できる“自分の基準”を整えましょう。
- 下地の粗さを一定にして粒子のノリを均します
- 希釈と圧は起点値を決めて往復で微調整します
- 色相ごとに明度差を設計し輪郭を崩しません
- トップコートで艶と粒の見え方を仕上げます
ガンプラ塗装をメタリックで魅せる|要点整理
まずは「粒子を置く場所」と「艶をどこまで残すか」を決めます。面のうねりは金属色で拡大されるため、研磨番手と下地色、吹き付けの角度を固定して初期条件を安定させます。ここが定まると色替えや道具替えをしても調整時間が短くなり、失敗が小さく収まります。
粒子感をコントロールする考え方
メタリックの粒は小さく均一に寝かせると鏡のように見え、大きく立つとザラついて迫力が出ます。どちらが正しいではなく、機体のスケール感と面の広さで選びます。1/144では粒を抑え、1/100以上なら少し立たせると説得力が出ます。面の中央は寝かせ、エッジ付近でわずかに立てると輪郭が締まります。
下地の色と粗さを数値で合わせる
黒下地は深み、グレーは万能、白は軽さが出ます。粗さは#1000→#2000→#3000の順で磨き、最終番手を必ず統一します。番手が混ざると艶のムラがそのまま金属色に写り、同じ塗料でも別色に見えます。下地の段差は光沢で誤魔化せないため、段階を飛ばさずに整えます。
吹き付け角度と移動速度の固定
角度は面に対して45度を起点に、速度は30〜40cm/秒を基本にそろえます。角度が寝すぎると粒が偏り、立ちすぎると付着が弱く剥がれの原因になります。速度が遅いと溜まり、速すぎると乗りません。起点を作ってから、1割ずつ上下させて最短の組み合わせを探します。
艶の設計と後工程の見通し
メタリックの上に艶を厚く載せると粒がわずかに沈み、反射は整います。半光沢で止めれば質感が締まり、つや消しで覆えば粒は目立たず色相の差が中心に残ります。最終の艶を先に決めることで、粒子の立て方や濃度の判断が揺れにくくなります。
試し吹きカードを作る
余白のランナーやプラ板に黒・グレー・白の下地を作り、同じ条件で三往復ずつ吹いて記録します。希釈比、圧、距離、角度を書き添え、翌日に自然光で再確認します。カードが2〜3枚溜まれば、色替えの前に迷いが減り、再現性が上がります。
1) 面を#1000→#2000→#3000で順に整える。
2) 下地色を決め、試し吹きカードで希釈と圧を確認する。
3) 角度45度・速度30〜40cm/秒を起点に一往復。
4) 半乾燥を待って二往復目、粒の寝方を確認して微調整。
5) 翌日に自然光で見直し、艶の設計と擦り合わせる。
- メタリック粒
- 顔料に含まれる金属片。寝かせると鏡面寄り、立てるとザラ感。
- 半乾燥
- 触れないが艶が落ち着く状態。層間のトラブルを減らす合図。
- 下地色
- 上塗りの見え方を決める土台。黒は深く、白は軽く見える。
- 起点値
- 距離・圧・速度の基準。小さく動かして最短を探すための拠り所。
基礎の考え方が固まったら、次は下地と粒子サイズ、塗料の系統を横並びで比較し、自分のキットと照らして選べるようにします。
金属感を決める下地と粒子サイズの選択
同じメタリックでも粒子サイズと下地で印象は大きく変わります。ここでは下地色の使い分け、ノズル径と粒子の相性、そして粒の寝かせ方に効く希釈の方向を整理します。比較の視点が増えるほど、狙いの質感へ短い試行で近づけます。
下地色の役割と機体ごとの選択
黒下地は反射のコントラストが強まり、深い金属光沢が生まれます。グレーは色転びが少なく調整が容易で、白は軽やかでパール寄りの雰囲気に寄せやすいです。エングレービングや複雑な面構成の機体は黒、明るい量産機はグレーから始めると捗ります。
ノズル径と粒子サイズの相性
0.2mmは微粒子向きで薄膜が得意、0.3mmは万能、0.5mmは大面積や粗い粒の表現で強みがあります。粒が大きい塗料を細いノズルで無理に吹くと濃度が上がりがちで、付着ムラの原因になります。塗料に合わせてノズルを選ぶと安定します。
希釈と圧で粒を寝かせるコツ
希釈を高め低圧で運ぶと粒は横に寝やすく、艶の整った金属感になります。反対に希釈を下げて圧を上げると粒が立ち、鈍い反射で武骨に見えます。いずれも二往復で止め、半乾燥で粒の向きを確認してから次の層へ移るのが近道です。
| 下地色 | 見え方 | 相性の良い粒 | 想定ノズル |
|---|---|---|---|
| 黒 | 深く重い反射 | 微粒〜中粒 | 0.2〜0.3mm |
| グレー | 万能で色転び少 | 中粒 | 0.3mm |
| 白 | 軽く明るい光 | 微粒 | 0.2mm |
| メタ下地 | ギラつき強 | 微粒 | 0.2mm |
黒下地は深さが出ますが埃が目立ちます。白下地は軽さが出ますがメタリックの密度が薄く見えがちです。グレーは調整の余地が広く、やり直しが効きます。
基礎の選択軸が揃ったら、次は希釈と圧を一定に運用し、往復数と重なり幅を固定してムラを抑えます。数値を持っておくほど調整が素早くなります。
希釈と圧を固定してメタリックを安定させる
希釈と圧は乗りと艶を決める心臓部です。起点値を用意し、重なり幅を三割、距離を10〜12cm、速度を30〜40cm/秒で固定すると、面の途中で判断が揺れにくくなります。ここでは可視化の手順と、よくある迷いの整理を行います。
起点値の作り方と再現運用
希釈1:1、圧0.06MPa、距離11cmを起点とし、二往復→半乾燥→0.5往復の流れで層を積みます。艶が均一に落ち着けば成功、粒が立ちすぎたら圧を下げ、沈むなら希釈を少し下げます。カードに結果を書き、次回の基準に加えます。
重なり幅と止め際の癖を正す
重なりは常に三割を意識し、止め際はパーツの外でトリガーを戻します。端で吹き終えるとミストが溜まり、暗い帯ができます。往復ごとに向きを変え、面中央の艶が連続して見えるかを反射で確認します。これだけで筋ムラは大きく減ります。
筆塗りメタリックの安定化
筆塗りは希釈を高め、筆圧を自重+αに抑えて層で整えます。筆の向きは面の長手方向へ統一し、止め際はパーツ外で離します。二層で方向、三層目で艶を均し、必要があれば翌日に薄く追って整えます。筆でも粒子は寝かせられます。
□ 希釈1:1を起点に±0.1ずつ動かす
□ 圧0.06MPaから±0.01で調整する
□ 距離10〜12cmと速度30〜40cm/秒を維持
□ 重なり三割と止め際の位置を声に出して確認
□ 翌日に自然光で再評価し記録を残す
- カードに起点値で一往復し艶を観察する
- 二往復目で粒の寝方を確認し微調整する
- 0.5往復だけ重ね、境界の段差を消す
- 半乾燥を待ってから本体へ移行する
- 翌日にトップコートの艶と照合する
よくある失敗と回避策
溜まりで暗くなる:速度が遅いか止め際が内側。外で戻す癖を付けます。
粉っぽい:距離が遠いか圧が高い。距離を詰めて圧を下げ、希釈を上げます。
筋ムラ:重なり幅のぶれ。三割を固定し、往復方向を交互に変えます。
運用が安定したら、色相ごとの設計に踏み込みます。同じ銀でも青味・黄味・赤味で印象が変わり、パーツの境界で差がつきます。
色相別メタリック設計と塗り重ねの順番
色相の違いは温度感や情報量の差として現れます。ここではシルバー系、暖色系、寒色系、ガンメタやアイアンの重さ、そして多層の重ね方を整理します。順番と明度差を意識すると、混色に頼らず狙いへ近づけます。
ニュートラルシルバーの基準を作る
基準色はニュートラルシルバーで作ります。黒下地で深さを出し、希釈1:1、圧0.06MPa、距離11cmで二往復。半乾燥後に0.5往復だけ追加して艶を均します。ここで粒の寝方を確認し、他の色相に展開すると調整が速くなります。
暖色系メタリックの厚みと明度差
カッパーやゴールドは黄や赤の成分が強く、濃度が上がると暗く沈みやすいです。薄く多層で積み、エッジ近くの明度をわずかに上げると重さと抜けの両立ができます。トップは半光沢で締め、反射を整えます。
寒色系メタリックの清潔感
ブルーやシアン系は黒下地で冷たい深さ、白下地で軽い光を得やすいです。写真で飛びやすいので、艶を光沢寄りにして反射を整え、背景はグレー〜黒で階調を見せます。濃すぎると暗転するため、0.5往復で止める判断が効きます。
Q:金色が緑に転ぶのは?
A:下地の色味と光源の影響です。グレー下地と半光沢で整え、撮影は暖色光を避けます。
Q:青メタが黒く沈む?
A:積層が厚いか背景が明るすぎます。0.5往復で止め、背景を暗くして露出を少し下げます。
Q:銀の粒が荒れる?
A:圧が高い可能性。0.05MPaへ下げ、距離を10cmに寄せます。
- 銀:基準色。黒下地+希釈1:1で二往復
- 金:グレー下地+半光沢で落ち着かせる
- 銅:黒下地+0.5往復で止めて沈み防止
- 青:白下地で軽さ、黒下地で深さを調整
- 鉄:黒下地+微粒で重さを出し過ぎない
・明度差は同一パーツ内で1段以内に保つ。
・暖色は層を薄く分け、寒色は艶で反射を整える。
・0.5往復の重ねで止める判断を持つ。
・背景は濃色寄りで階調を可視化する。
・翌日に自然光で再評価し、必要だけ追う。
色相を捌けるようになると、工程の安全性が次の課題になります。マスキングで粒を壊さず、仕上げで艶と反射を整える工夫を押さえておきましょう。
マスキングと仕上げで金属感を崩さない
メタリックは境界の乱れが目立ちます。テープの圧着、剥がす角度、トップコートの艶設計を工程で固定すると、偶発的な艶ムラや白化を避けられます。ここでは境界処理と仕上げの選び方を具体的にまとめます。
テープの粘着と剥がしの角度
新しいテープは一度手の甲で粘着を落とし、境界は綿棒で軽く撫でて圧着します。剥がしは完全乾燥後、15〜30度で浅く引き、境界と逆方向へゆっくり動かします。無理に剥がすと粒が起きて艶が乱れます。
トップコートで艶と粒を整える
光沢は粒をわずかに沈めて反射を均し、半光沢は情報量を整理します。つや消しは金属感が弱くなるので、金属面は光沢〜半光沢で止めるのが目安です。厚塗りは色が沈むため、極薄で回数を分けます。
部分補修と磨き直しの判断
境界の滲みや砂塵は完全乾燥後に極細研磨で軽く均し、0.5往復だけ薄く追います。無理に擦ると粒が崩れるので、翌日に判断してから修正します。トップコートで隠れる程度なら触らない選択も有効です。
| 艶 | 見え方 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 光沢 | 反射が強く深い | 粒が沈み面が整う | 埃が目立つため薄く複数回 |
| 半光沢 | 情報が整理 | 万能で撮影が楽 | 艶の選択で色が変わる |
| つや消し | 落ち着いた質感 | 他素材との対比に有効 | 金属感は弱まる |
工程を安全に通す視界が得られたら、最後は作品をどう見せ切るかです。撮影とメンテを整えると、現物の輝きが写真でも毀損されません。
撮影とメンテで輝きを見せ切る
金属面は光の置き方で印象が激しく変わります。露出と背景、光源の拡散を整えると、粒と艶の設計意図がそのまま写ります。合わせて保管とメンテの基本を押さえ、黄変や擦れを避けて長く楽しみましょう。
露出と背景で粒を見せる
背景はグレー〜黒で反射の階調を確保し、露出は−0.3〜−0.7EVでわずかにアンダーへ寄せます。光は柔らかい一灯+レフでエッジを起こし、面中央は反射を滑らかにします。白背景で飛びやすい銀は特に注意します。
光源の拡散と色温度
拡散の弱い直射は粒が暴れ、拡散が強すぎると艶が眠ります。薄いディフューザーで面を広げ、色温度は5000〜5600K付近でニュートラルに揃えます。暖色の光は金を持ち上げ、寒色は青系が締まるので意図的に使い分けます。
保管とメンテの基本
直射日光と高温多湿を避け、ケース内で防塵します。触れるときは手袋を使い、柔らかい布で軽く拭きます。小傷は薄い追いクリアで目立たなくできる場合がありますが、無理に磨かず記録を残して次作の基準にします。
- EV
- 露出補正。負に振ると暗く、正に振ると明るい。
- ディフューザー
- 光を拡散させるもの。硬い影を柔らかくする。
- ニュートラル
- 色かぶりの少ない状態。白とグレーが自然に見える。
- レフ
- レフ板。影側に光を回して情報量を補う道具。
濃色背景は粒の輪郭が見え、白背景は艶が強調されます。アンダー露出は階調が残り、オーバーは清潔感が出ます。狙いに合わせて切り替えます。
撮影とメンテの基準があれば、現物の輝きは写真でも安定して再現できます。最後に、今日から運用できる要点を短く振り返ります。
まとめ
メタリックは下地と粒子、希釈と圧、艶の設計を小さく固定すると安定します。ガンプラ塗装 メタリックでは、下地の粗さを統一し、重なり三割と距離10〜12cm、希釈1:1・圧0.06MPaを起点に二往復→半乾燥→0.5往復で層を積みます。色相は明度差を一段以内に保ち、暖色は薄く分け、寒色は艶で整えます。マスキングは撫でて圧着し、剥がしは浅く引き、仕上げは光沢〜半光沢で粒を活かします。撮影は濃色背景とわずかなアンダーで粒と艶を見せ、保管は直射と湿度を避けて清潔に保ちます。小さな基準を重ね、翌日に自然光で見直す癖をつければ、毎回の輝きが静かに整っていきます。

