クリアパーツは光を通すぶん表情が繊細で、少しの曇りや傷も目立ちます。だからといって構えすぎる必要はありません。素材の弱点を先回りして小さな基準を決め、淡い層を重ねるだけで完成に近づきます。この記事では透明感を守る準備と発色を引き出す下地、仕上げと保護までを一本の流れにまとめました。道具や塗料の違いで揺れないよう数値の目安も添えます。読後には作業カードが手元に残り、次の一体で迷いが減ります。
- 素材に合わせて溶剤と圧を調整し割れを避けます
- 下地と濃度を固定し発色と透明感を両立します
- マスキングと接着の曇りを工程で予防します
- トップコートと保管で長期の黄変を抑えます
クリアパーツの塗装を美しく仕上げる|初学者ガイド
最初に押さえたいのは、割れや白化を招く条件と避け方です。クリアは不透明パーツより溶剤に敏感で、応力が残るとクラックに進みます。そこで強い溶剤を直接触れさせないこと、圧と距離を保つこと、乾燥を刻むことを前提にします。これだけで事故の多くは避けられます。
素材特性と割れを避ける溶剤の考え方
ガンプラのクリアは主にPS系です。PSは強溶剤で応力割れを起こしやすく、濃いシンナーが長く触れると白化します。塗装は弱めの溶剤を選び、エアブラシは遠めの砂吹きから始めます。筆塗りでも濡れたままこすらず、軽く伸ばして止めます。乾燥を挟めば樹脂が膨潤しにくくなり、透明感が保たれます。
指紋と擦り傷を残さない前処理の流れ
素手で触る時間が長いほど皮脂が定着します。中性洗剤で洗浄し、柔らかい布で水分を押し取ります。ダボの食い付きやパーティングラインは極細の研磨具で均し、最後に超微粒で目を消します。磨き後はホコリを払ってから乾燥ケースへ移し、作業直前まで触れないようにします。
透明感を保つ磨きとコンパウンド選び
曇りが出た面は段階を戻して整えます。番手を飛ばすと深い傷が残ります。目安は1000→2000→3000→コンパウンド細目→極細の順です。磨きは熱で歪むので一点に荷重を掛けず、面積を広く使って往復を短くします。仕上げに極薄のクリアでコートすると小傷が埋まり、光の通りが素直になります。
色を乗せる前の密着の作り方
完全な鏡面は塗膜の食いつきが弱くなります。細かな足付けを残すか、クリア系のプライマーを薄く使います。最初の一層は砂吹きで粒を置き、半乾燥で二層目を軽く流します。厚みを急がず層を分けるとレベリングが働き、曇りを抑えながら密着も安定します。
曇りの原因と湿度・温度の管理
カブりは溶剤の急冷や湿度の高さで起きます。低温や多湿では白化しやすく、特に薄いクリアほど影響を受けます。作業は室温20〜25度、湿度50%前後が目安です。ペースを上げたくなったら距離を少し詰めるのではなく、時間を分けて乾燥させます。焦らない選択が透明感の近道です。
- 中性洗剤で洗って完全乾燥させる
- 微細研磨で面を整え足付けを残す
- 試し吹きで圧と距離を確認する
- 砂吹き→半乾燥→軽く流して一層目
- 冷静に乾かし二層目で均一に整える
- 応力割れ
- 樹脂内部の力と溶剤の相互作用で起きる微細なクラック。
- 砂吹き
- 遠距離で粒を置き食いつきを作る吹き始めの手法。
- レベリング
- 塗膜が自重でならされる現象。薄く時間を置くと働きやすい。
- カブり
- 白化現象。低温や多湿、強溶剤の急冷で発生しやすい。
- 足付け
- 微細な傷で密着を高める下地処理。曇りが出ない粒度を選ぶ。
前提を整えるだけで事故は激減します。以降は色をどう見せるかという設計の段階です。透明感を基準に、下地と濃度で表情をコントロールしていきます。
発色レシピと透明感を両立する下地設計
クリア色は下地の色と艶で見え方が大きく変わります。ここでは下地の選択と濃度の刻みを固定し、狙いの発色を短い往復で再現します。メタリック下地で跳ねる色、乳白で柔らぐ色、スモークで締まる色を切り替えます。
メタリック下地で発色を跳ね上げる
銀やアルミ系の下地にクリアを重ねるとキャンディのような深みが生まれます。下地は粒子の細かいメタリックを薄くフラットに敷き、完全乾燥を待ってからクリア色を乗せます。最初の二往復は淡く、三往復目で色の底が立ち上がります。下地の銀が荒いと粒が透けてノイズになるため、細かいものを選びます。
乳白の柔らかさを作るクリアホワイトの使いどころ
透明をわずかに乳白さへ寄せたい場面ではクリアホワイトを微量に混ぜます。濃度が高いと奥の構造が見えにくくなるため、アクセントだけに留めます。光の当たる縁だけ一段薄く残すと厚みが出て、ガラスのエッジ感が生まれます。曇りを避けたいので重ね過ぎに注意します。
スモークの濃度を距離と往復で管理する
スモークは締まりを作れますが、濃度が強いと黒く沈みます。距離を10〜12cm、圧0.05〜0.08MPaを目安に、二往復で様子を見ます。外側を気持ち強めにし中央は薄く保つと、立体の輪郭が引き立ちます。写真映えを意識するなら白飛びを避けるため、少しだけ外周を強くします。
- メタリック下地のメリット:深みと発色が強い。面の密度が上がる。
- メタリック下地のデメリット:粒が荒いとノイズ。研ぎ出しで下地露出のリスク。
- 乳白寄せのメリット:柔らかく軽い印象。内部の粗を隠しやすい。
- 乳白寄せのデメリット:過多で曇り。透明感の後戻りが難しい。
- スモークのメリット:輪郭が締まり情報が整理される。
- スモークのデメリット:やり過ぎると黒く沈む。
Q:銀の代わりに白下地でも良い?
A:明るく軽い発色になります。深みは減るので、彩度を少し高く調整すると整います。
Q:キャンディでムラが出る
A:往復の重なり幅を三割に固定し、半乾燥を挟みます。濃度ではなく層の数で深さを出します。
Q:スモークが粉っぽい
A:距離が遠いか圧が高い可能性があります。距離を詰め、希釈を上げて粒を寝かせます。
- キャンディ初期値:希釈1:1 圧0.06MPa 二往復
- 乳白寄せ:クリアに対しホワイト3〜5%
- スモーク外周:中央比+0.5往復で縁を締める
- 下地乾燥:最低一晩。触らず反射で確認
- 重なり幅:長辺基準で三割を維持
下地と濃度の設計が固まると、同じ距離と速度で色が揃い始めます。以降は道具の扱いでムラをさらに減らし、艶と層の厚みをコントロールしていきます。
エアブラシと筆で均一に色を重ねる実践ノウハウ
透明色は塗り重ねの厚みがそのまま色の濃さになります。だからこそ距離と速度、乾燥の挟み方を固定します。筆も同じで、荷重と希釈を一定に保てば筋は目立ちません。ここでは日々の初期値をカード化します。
エアブラシで粒を寝かせて層を作る
口径0.3の起点は希釈1:1、圧0.06MPa、距離10〜12cmです。最初は砂吹きで面に食いつきを作り、30〜40cm/秒の速度で均一に往復します。重なりは三割を維持します。止め際のミストを避けるため、トリガーを戻してから手を離します。先端の溶剤だまりはこまめに拭きます。
筆で透明色を穏やかに伸ばす
筆は希釈を上げ、毛先が走る感覚を保ちます。荷重は自重+αで、同じ方向に短く往復します。一回で決めず三層で完成を想定します。エッジは先に薄く置き、面は最後に軽く伸ばして整えます。乾燥を挟むことで筆目が戻りにくくなります。
粒立ちと垂れを抑える乾燥管理
粒立ちは距離が遠い、垂れは近すぎるのが主因です。迷ったら試し吹きカードで目視確認します。半乾燥の目安は艶が半分落ちる頃です。ここで一拍置いてから次の薄い層を重ねると、レベリングが働き表面がなだらかになります。焦ると曇りが出やすくなるため、時間で追いません。
| 項目 | 起点値 | 操作の要点 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 口径 | 0.3mm | 希釈1:1で二往復から | 反射ムラと粒の寝方 |
| 圧力 | 0.06MPa | 粒が立つなら下げる | ザラつき消失で判断 |
| 距離 | 10〜12cm | 重なり三割で統一 | 境目の帯が消えるか |
| 速度 | 30〜40cm/秒 | 止め際は先に戻す | 端の粒残りを観察 |
| 筆 | 希釈高め | 三層で仕上げる | 逆光で筋を確認 |
よくある失敗と回避策
ザラつく:圧が高いか距離が遠いです。圧を下げ距離を詰めます。
ベタつく:希釈不足や近距離です。希釈を上げ距離を戻します。
ムラ:重なり幅が揃っていない可能性。三割を固定します。
- 試し吹きカードにその日の条件を記録
- 重なり三割を声に出して確認
- 半乾燥の艶を目で見てから次へ
- 止め際は必ずトリガーを戻す
- 筆は三層で完結させる前提にする
動かし方の基準が固まると、色設計が狙い通りに見えてきます。次は表現の幅を広げるため、スモークやメッキ調などの応用を整理します。
スモークやメッキ表現で魅せる色味調整
クリアパーツは光を抱く小さな窓です。そこへスモークやキャンディ、鏡面のクローム風を合わせると、機械らしい密度が生まれます。ここでは濃度の線引きと効果の使い分けを整理します。
キャンディで深みを出す重ね方
銀の上にクリアレッドやブルーを重ねると艶のある深みが出ます。最初の二往復は薄く、三往復目で色を決め、必要なら四往復で締めます。角や縁は溜まりやすいので速度を一定に保ちます。濃度で無理をせず層で深さを作るのが安全です。
スモークでガラス感と情報整理を両立
全面を濃くすると重くなります。外周をやや強く、中央を薄く残すとガラスらしい厚みが出ます。隣接パーツとのコントラストを見て、写真で白飛びが出る場合は外周を0.5往復だけ強めます。透明感を守るために、必ず半乾燥で止めてから様子を見ます。
クローム風の扱いと保護の順序
鏡面系は非常にデリケートです。触れると曇る塗料も多く、保護クリアで沈む場合があります。先に別パーツでテストし、触れるのは手袋越しにします。クリアで保護する場合は極薄で数回に分けて、艶の変化が許容範囲かを逐次確認します。
- 下地の銀を薄く均一に敷く
- 完全乾燥までケースで保護
- クリア色を二往復で様子を見る
- 発色が立ったら0.5〜1往復で締める
- 必要に応じて極薄クリアで保護
- 写真で白飛びと濃度を確認
- 乾燥後にマスキングや組み立てへ
応用表現は強さが魅力ですが、強すぎる一歩手前で止めると気品が残ります。次は事故が起きやすいマスキングと接着を、工程で安全に通過させます。
マスキングと接着のトラブルを工程で避ける
曇りや剥がれは完成間際に気持ちを削ります。そこで粘着の管理と剥がしの角度、そして接着の溶剤を工程で管理します。準備を整えれば怖い場面は減ります。
マスキング材の選び方と圧着のコツ
新しいテープは粘着が強いことがあります。手の甲で一度落としてから使用します。圧着は面で押さず、綿棒の先で境界だけを丁寧に撫でます。塗装は境界に向かって吹かず、外から内へ流すと染み込みを抑えられます。剥がしは塗膜が完全に乾いてから角度を浅く取ります。
曲面と細線のマスクを安定させる
細切りにしたテープは曲面に追従します。先に輪郭線を細テープで作り、内側を広幅で埋めます。複合曲面はシワが逃げ道になるので、切れ込みを入れて重ねます。境界を強く押さえず、指の腹で均すだけにすると後で剥がしやすいです。漏れは薄い層なら磨きで整えられます。
接着で白化を出さない順序と材の選択
溶着系接着剤は揮発ガスで白化を起こします。クリアは特に影響を受けます。二度目の組み付けが想定される部分は、硬化後にガスを出しにくい接着剤を選ぶか、物理固定を優先します。どうしても溶着が必要な場合は最小量を狙い、密閉空間で硬化させないようにします。
- 新しいテープは一度粘着を落とす
- 境界は綿棒の先で軽く圧着
- 外から内へ吹いて染み込みを防ぐ
- 剥がしは完全乾燥後に浅い角度
- 曲面は細テープで輪郭→広幅で充填
- 接着は揮発ガスの逃げ道を確保
- 曇りが出たら無理に触らず翌日に判断
- 養生前に埃を払って静電気を落とす
- 輪郭を細テープで先に作る
- 内側を広幅で埋めて境界を撫でる
- 薄く砂吹き→半乾燥→本吹き
- 完全乾燥後に浅い角度で剥がす
マスキングと接着は敵ではありません。工程の順序を守れば利点が勝ります。最後は保護と仕上げで透明感を長く保ちます。
トップコートと保護で透明感を長く維持する
完成後の印象は艶で大きく変わります。さらに黄変や傷を抑えるためにトップコートと保管環境を整えます。艶と強度の折り合いを取りつつ、見た目の清潔感を守ります。
艶別の選び分けと順序の考え方
半光沢は素材感が残り万能です。光沢は透明感と深みが増しますが埃が目立ちます。つや消しは情報を整理できますがガラス感は薄れます。センサーは光沢、外装の窓は半光沢、内部の遮光はつや消しが目安です。いずれも極薄を重ね、半乾燥を挟みます。
保護と研ぎ出しで仕上げの密度を上げる
クリア層を守りたい場合は薄く数回に分けて載せます。完全乾燥後、超微粒で軽く均し、極薄で追いクリアをかけると面が整います。鏡面狙いでも削り過ぎると下地が露出します。段階を戻す勇気を持てば大きな事故を避けられます。
修復とメンテナンスの現実的な判断
小傷は再コートで目立たなくできます。黄変は塗膜や素材の変化で後戻りが難しいです。直射や高温多湿を避け、ケースで防塵します。手で触れる機会を減らすだけでも清潔感は保てます。無理をせず再制作の判断も選択肢に置きます。
- 光沢の利点:透明感と深みが最大化。反面で埃が目立つ。
- 半光沢の利点:素材感が残り扱いやすい。万能。
- つや消しの利点:情報量を整理し落ち着く。
- 注意点:どの艶でも厚塗りは曇りやヒケの原因。
- 艶は部位ごとに目的で選ぶ
- 極薄で回数を分けて重ねる
- 完全乾燥後に軽く均して追いコート
- 展示は直射と高温多湿を避ける
- 手袋やケースで指紋と埃を遠ざける
仕上げの考え方が固まれば、透明感は制作後も長く続きます。道具と工程を記録しておけば再現性が上がり、次の作品でも安心して応用できます。
まとめ
クリアパーツの塗装は、素材をいたわりながら薄い層で目的を積む作業です。下地で発色の土台を作り、距離と速度を固定して濃度を刻めば、透明感と色の深みは両立します。マスキングや接着は粘着と溶剤を工程で管理すれば怖くありません。最後は艶で情報量を整え、保管環境で清潔感を守ります。
今日から「重なり三割」「二往復で様子見」「半乾燥を挟む」の三つを合言葉にしてみてください。判断が軽くなり、仕上がりの揺れが静かに収まっていきます。

