- 目的の地形を一文で書き出し、素材と手順を絞る
- 割れ目の方向を揃え、陰影の幅でスケール感を出す
- 土と苔を“面積ではなく点と線”で足して締める
- 固定と配置は早期に設計し、塗膜と形を守る
ジオラマ岩の作り方を基礎から応用へ|効率化のヒント
作業を分けて考えるほど失敗は小さくなります。ここでは全体の道筋を把握し、目的に合う芯材と接着・下地を決めます。実物写真の観察を起点に、割れ目の規則、層の厚み、表面の粗さをメモ化し、使う工具を最小限に絞ると手が軽くなります。屋内作業では粉と臭気の管理もセットで考え、乾燥待ちの時間に次工程の準備を挟むと効率が上がります。
岩のタイプとスケール感の見極め
花崗岩のような割れが直交する岩、堆積岩の層が重なる岸壁、溶岩の泡痕が残る表面など、実物は規則と例外の混在です。ミニチュアでは“規則の割合”をやや大きめにし、破りどころを一箇所だけ設けると縮尺が落ち着きます。凹凸の振れ幅も重要で、1/35なら指先で触れてわかる程度、1/144なら光でやっと拾える程度に抑えると、写真でも自然に見えます。影の深さを一定にせず、谷の底ほど冷色に寄せると奥行きが増します。
発泡材・石粉粘土・軽量粘土の使い分け
発泡スチロールは切り出しが早く軽量で、硬めの筆で叩くと粗肌が出ます。押しつぶすと層状の割れも再現可能です。石粉粘土は硬化後のエッジが立ち、欠けの表情が豊かで、彫刻刀の反応が素直です。軽量粘土は収縮が小さく、上からテクスチャペーストを乗せても割れにくいのが利点です。混在させる場合は芯を発泡材、表層の数ミリを粘土にして、軽さと表情の両立をねらいます。
必要な工具と接着・下地の基準
基本はカッター、彫刻刀、ワイヤーブラシ、硬めの古筆、PVAボンド、瞬間接着、発泡対応のプライマー。下地は暗めのグレーを基調に、黄土か青みを少量まぜ色温度を整えます。発泡材にラッカーを直に吹くと溶けるので、PVAや水性プライマーでバリアを作ってから色を重ねます。接着面は面で受け、ピンで補強すると輸送にも耐えます。
安全と作業環境の整え方
粉塵は掃除より発生源の抑制が効きます。削りは箱内で行い、掃除機を弱で当てながら進めると拡散が小さくなります。塗装は換気を確保し、水性中心に構成すれば臭気負担が軽くなります。カッターは新刃を使い、力で割らず刃を通す意識に切り替えると怪我が減ります。作業は“短い工程”に区切り、都度片付けて気持ちをリセットします。
観察メモの取り方と設計の要点
現地写真やストリートビューで、層の走り、草の付き方、水の染み跡を観察して矢印と色語でメモします。メモをそのまま作業台に貼り、方向とスケールの指針として使うと迷いが減ります。仕上がりサイズと撮影アングルを先に決め、見せたい面から割れ目の向きを流すと構図も決まりやすいです。模型の人物や車両との干渉も、仮置きで早めに確認します。
手順ステップ
- 目的の地形を一文で定義し観察メモを書く
- 芯材と接着の組み合わせを決め試験片を作る
- 割れ目の方向と構図をスケッチで固定する
- 下地色の温度を決めテスト吹きを行う
- 乾燥待ちの間に配置ベースを整える
注意
発泡材に溶剤系塗料を直吹きすると溶けます。必ず水性プライマーやPVAでバリアを作ってから色を重ねましょう。
ミニ用語集
- 層理:地層の走る向き。矢印で揃えると自然。
- 節理:冷却や収縮でできた割れの規則。
- バリアコート:素材を溶剤から守る下地膜。
- 色温度:暖かさ・冷たさの感覚的な指標。
- 戻し塗り:濃淡の境界を中間色でなじませる。
芯材の組み方と形の切り出し
形の説得力は“最初の塊”で決まります。ここでは発泡材のブロック化→荒切り→面取りの順で大勢を作ります。割れ目を後付けする前提で、流れと傾きだけを早めに決め、ベースとの噛み合わせも仮固定で確認します。塊の段階で構図が決まると以降が楽になります。
ブロックの接着と芯の軽量化
厚みが必要なときは薄い板を積層してブロック化し、PVAを面で塗ってクランプで圧をかけます。内部に空洞を残すと軽くなり、持ち上げやすく輸送も安心です。底面はベースと平行に削り、接触面を増やして安定させます。仮置きでアングルを確認し、見せ場の面を決めておくと後の割れ目が通しやすくなります。
荒切りと面取りで“岩の勢い”を作る
カッターで大きく角を落とし、刃を通す方向を一定にしながら面を増やしていきます。面取りの比率は“厚い辺:薄い辺=2:1”を目安にし、勢いの流れる側をやや大きく残すと構図に動きが出ます。削り屑は表情材として再利用できるので保管しておき、後で割れ目の谷に押し込むと自然な崩落が表現できます。
ベースへの仮固定と強度の準備
真鍮線でピンを打ち、ベースに同径の穴を開けて抜き差しできるようにします。接触面はボード紙を噛ませると摩擦が増えてズレが出にくいです。後工程の筆圧や貼り付けでズレないよう、仮のピンでも二点以上で固定するのが安心です。持ち手を付けて全方向から確認できるようにすると、手早く修正が回せます。
比較:芯材の選び分け
発泡ウレタン:密度が高く細部に向く/やや重い
バルサ・コルク:欠けの表現が得意/大面積は時間がかかる
ミニチェックリスト
- 割れ目の大方向をスケッチで固定したか
- 底面はベースと平行で接触面が十分か
- ピン位置は二点以上で保持できるか
- 内部に空洞を残して軽量化したか
- 削り屑を表情材として保管したか
事例/ケース引用
「荒切りで面を増やしてからベースに仮挿ししたら、見せたい角度がはっきりしました。削り屑を谷に戻したら崩落らしさが出て、仕上げの作業量が減りました。」
岩肌テクスチャの作り方と割れ目の入れ方
岩らしさは表面の“規則と乱れ”の配分で決まります。ここでは押す・叩く・裂くの三動作でテクスチャを作り、層理や節理の向きを通してから微差を散らします。工具の当て方を変えるだけで表情が大きく変わるので、試験片で“今の圧”を確かめてから本体へ移すのが近道です。
押し付けと引き剥がしで層を出す
発泡材には金属ブラシや石片を押し付け、面を潰して層の差を作ります。石粉粘土なら乾燥前に硬めの筆で叩き、乾燥後に薄く割ると層理の段差が出ます。引き剥がしは粘着の弱いテープで行い、表面の皮だけをめくるイメージ。均一にしすぎず、同じ方向の“抜け”を作ると風化の流れが表現できます。
割れ目と欠けの位置決め
割れ目は“繋がる谷”を先に一筆で通し、その後に分岐を足すと自然です。欠けは角に集中させず、面の端へ逃がすとスケールが落ち着きます。彫刻刀は押すよりも“引いて止める”と欠け口が鋭くなり、光を拾いやすくなります。谷の底には削り屑や砂を接着して、ランダムさを補強します。
水の痕跡と風化の筋を散らす
水が伝う面には細い筋を縦に刻み、筋の始まりを高所に集めすぎないよう散らします。風向きを決め、苔や砂の溜まりを片側へ寄せると、写真で見ても動きが出ます。筋の太さは二段階程度に抑え、太い筋の外側だけを少し深くして変化を出すと、やり過ぎを防げます。
| 工具 | 当て方 | 得られる表情 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ワイヤーブラシ | 押し当てて引く | 層の段差と流れ | 押し込み過ぎに注意 |
| 硬い古筆 | 叩いて抜く | 微細な凹凸 | 乾燥前後で反応が違う |
| 彫刻刀 | 引いて止める | 鋭い割れ口 | 方向を揃え過ぎない |
| 石片 | 角で押す | 自然な欠け | 均一化に注意 |
| 粘着テープ | 軽く貼って剥がす | 表皮の剥離 | 粘度が強すぎると剥がれ過ぎ |
よくある失敗と回避策
割れ目が“井”の字になる:直交を多用し過ぎ。一本の長い谷を先に通し、交差は後から必要最小で。
表面が均一でのっぺり:工具を一種類で済ませたサイン。押す・叩く・裂くを混ぜ、“抜け”を意図的に作る。
発泡材が潰れ過ぎる:圧が強い。試験片で力の加減をメモ化し、本番は軽く刻んで戻す。
ベンチマーク早見
- 層の厚み:主層2〜5mm相当を基本に幅を混在
- 割れ目の本数:長い谷1本+分岐2〜3本が目安
- 欠けの集中:角は3割以内に抑えると自然
- 水の筋:太細2段に分け、始点を散らす
- 砂の溜まり:谷底と風下に点で配置
着色の基礎と色の層を重ねる手順
色は“面の向きと湿り気”を伝える道具です。ここでは暗い下地→中間のにじみ→点のハイライトの順で積層し、色温度で石種の雰囲気を寄せます。乾燥を挟みながら薄い層で進めると、やり直しが利きます。
下地の温度と影の幅を決める
グレーを基調に、暖かさを出すなら黄土、冷たさなら青をひと滴。谷の底ほど冷色寄り、面の上ほど中立へ戻すと奥行きが増します。最暗部は黒に寄せず、彩度の低い褐色を足すと濁りません。筆でもエアでも“薄く何度も”を徹底し、乾燥後に粉を払ってから次へ進むと清潔です。
ウォッシュと戻し塗りで密度を上げる
濃い色を薄く溶き、谷に流して自然な染みを作ります。乾いたら中間色で境界を“戻し”、にじみの重なりを作ると密度が上がります。同じ色で全体を覆うのではなく、面の向きに応じて塗り分けると、写真で見たときの立体感が安定します。粉っぽさが出たら艶の低いクリアで軽くまとめると落ち着きます。
点光とエッジで締める
白ではなく明度の高い中間色で点光を置くと、石の粒感を壊しません。角は線でなぞらず、短い破線で止めると“作業の匂い”が薄くなります。湿り面を作る場合は、局所的に艶を上げ、境界をぼかすと自然な濡れが表現できます。最後に全体の温度を見直し、青みや黄みの過不足を微調整します。
手順の要点(有序リスト)
- 下地は中暗のグレー+温度用の一滴で作る
- 谷へウォッシュ→乾燥→中間色で戻し塗り
- 面の向きで色を変え、単調さを避ける
- 点光は明るい中間色で小さく置く
- 艶を局所的に変え湿り面の差を作る
- 最終で温度バランスを再点検する
- 写真で確認し、必要なら層を一段戻す
Q&AミニFAQ
Q. 黒を使うと重くなる。
A. 最暗部は褐色や深緑で作り、黒は最後の点だけにすると濁りを避けられます。
Q. 粉っぽい。
A. 層間で薄いクリアを挟み、戻し塗りで境界を溶かすと密度が戻ります。
Q. 色が単調。
A. 面の向きで温度を変え、谷は冷、天面は中立に寄せると立体が出ます。
ミニ統計:色と印象の傾向
- 黄土寄りの下地は温かく乾いた岩に見えやすい
- 青寄りの谷は湿りや深さの印象を強める
- 点光の密度は“面積の1〜2%”で十分効果的
ウェザリングと苔・水分表現の足し引き
風化や苔は“情報の増やしすぎ”に注意が必要です。ここではピグメント→ステイン→植生の順で少量ずつ足し、視線誘導に効くところへ集中させます。乾湿の差を小面積にまとめると、絵が締まります。
ピグメントとステインの乗せ方
ピグメントは接着前に位置を決め、固定液は筆先で点置きします。広く濡らすと粉が流れ、意図しない筋が出ます。ステインは谷の始まりを散らし、茶と緑を混ぜすぎないことがコツ。乾燥後に軽く払って余分を落とし、必要なら色を一段戻します。にじみが重なった場所は、明るい中間色で“抜け”を作ると呼吸ができます。
苔や草の配置とスケールの守り方
苔は点で置き、線で繋げすぎないよう注意します。草は伸びの向きを風下へ揃え、岩の影に溜めます。接着は薄いPVAを爪楊枝で置くと過多になりません。色は一色で終わらせず、乾燥後に明るい粉を軽く叩いて褪色感を足すと、写真での抜けが良くなります。植生の密度は“画面の端へ向かうほど薄く”が目安です。
水分や湿りの表現
湿りは艶の差で作り、狭い領域に集中させます。クリアを薄く塗り、境界をぼかすと自然です。溜まり水は極小のくぼみに透明樹脂を落とし、周囲を冷色に寄せると温度差が伝わります。濡れた筋の始点を高所へ集め過ぎないよう注意し、複数の小さな始点を作ると実感が増します。
無序リスト:やり過ぎを防ぐ要点
- 苔は点で置き線で繋げない
- 粉は固定液を点で落として流さない
- 茶と緑の混色を避け濁りを防ぐ
- 乾燥後に明るい粉で褪色を足す
- 湿り面は艶の差で小面積にまとめる
- 溜まり水は温度差を周囲の色で示す
- 端に行くほど情報量を減らす
- 写真で確認し足し過ぎを戻す
ミニ統計:足し引きの目安
- ピグメント固定点の間隔:5〜15mm相当
- 植生の密度:主役面20〜30%、周辺10%以下
- 湿り面の占有率:全体の5%前後で十分
比較:乾いた岩と湿った岩
湿った岩:青寄りの温度/局所艶/影は狭く深い
固定と配置と撮影までの段取り
良い岩も置き方次第で魅力が鈍ります。ここでは固定の強度→配置の視線誘導→撮影の照明まで一続きで整えます。早期に仮固定し、周辺小物との距離と高さを決めると、塗装やウェザリングの“足しどころ”も見えてきます。
固定の強度設計とメンテ性
真鍮ピン+二液エポキシで主固定、周縁はPVAで“逃げの接着”。輸送時は衝撃が一点に集まらないよう、ベースの裏から補強板で“面受け”にすると安心です。メンテを考え、主要ピンは抜ける設計にしておくと、埃落としや差し替えが容易です。底面に滑り止めを貼ると撮影時の微調整がしやすくなります。
配置と視線の流れを作る
主役の人物や車両と岩の距離を“顔の一歩先”に設定すると、目線が自然に誘導されます。割れ目の流れを主役へ向け、苔や草の密度も主役側に寄せるとリードが生まれます。ベース端の抜けを意識し、情報量を端ほど減らすと写真にしたときの収まりが良くなります。空き地には“空気の層”として薄い粉や落葉を点で足します。
撮影の光と背景の整え方
45度の斜光を基本に、反対側へレフで柔らかい返しを入れます。背景は無彩色で、被写体との距離をとると影が落ちにくくなります。湿り面は光を映しやすいので、ディフューザーを使って面の形を崩さずに撮るのがおすすめです。色転びはホワイトバランスで補正し、実物と画面の差をメモすると次に活きます。
ミニチェックリスト
- 主要ピンは抜ける設計でメンテ性を確保
- 主役へ割れ目と苔の密度を寄せる
- ベース端の情報量を落として抜けを作る
- 45度斜光+レフで立体を見せる
- 背景は無彩色で距離をとる
事例/ケース引用
「固定を面受けに変えたら輸送で緩まず、撮影では主役側へ割れ目を流しただけで視線が自然に集まりました。背景を離したら影の整理も簡単でした。」
Q&AミニFAQ
Q. ベースが重くなる。
A. 芯を空洞化し、補強は外周の面受けに。局所の重量物はベース直上に置きます。
Q. 画面が散らかる。
A. 情報量の勾配を端へ向かって下げ、主役の“顔の一歩先”に岩の見せ場を置きます。
Q. 色が実物と違う。
A. 照明の色温度を合わせ、WBをグレーで合わせ直すと近づきます。
まとめ
芯材で勢いを決め、テクスチャで規則と乱れの配分を整え、色の層で奥行きを作れば、岩は“背景の主役”として存在感を放ちます。割れ目は一本の谷から始め、分岐を後足しにするだけで自然が宿ります。苔や湿りは点と線の最小限で、視線の誘導を助ける場所へ集中させます。固定と配置は早めに設計し、撮影の光まで含めて絵の収まりを意識すると、仕上がりが一段と落ち着きます。今日の試験片をメモと一緒に残し、次の一体で“配分”をもう一段磨いていきましょう。

